ひとくちにメープルシロップといっても、どれも同じではありません。砂糖カエデの樹液「メープルサップ」を採取できるのは、2月末から3月はじめのわずかな期間だけ。夏の間に砂糖カエデは光合成によって内部にでんぷんを蓄え、冬を迎える前にでんぷんを糖に変えます。この糖のおかげで砂糖カエデは氷点下のカナダの厳しい冬を乗り越えることができるのです。ようやく春を迎えようという時期、昼と夜の温度差が一定の条件を満たすようになると、砂糖カエデは糖を幹全体にいきわたらせるので、幹にタップ(蛇口)を取り付けると糖度2~3パーセントの樹液が流れ出すのです。
樹液の採取時期によって、メープルシロップは4つの等級に分かれます。採取時期の早い順から①ゴールデン(Golden)②アンバー(Amber)③ダーク(Dark)④ベリーダーク(Very dark)と呼ばれ、味や値段も変わります。早い時期に採取した樹液でつくるほど色が明るく、味も軽やかで上品な舌触り。値段も少々お高めです。それが、時期が遅くなるにつれて徐々に色も味わいも濃厚になっていきます。お土産物屋などでもっともよく目にするアンバーは、ゴールデンとともにパンケーキにかけたりヨーグルトに混ぜたりしますが、ダークやベリーダークになると深い味わいを生かして肉料理やスイーツづくりに使われます。しかし種類が違っても、まったく変わらないのは、メープルシロップがただ樹液を煮詰めてつくる、混ざりけの一切ない天然の甘味料だということです。
ですから、樹液の採取時期による違いのほかに、砂糖カエデの木が健康かどうか、その林のある土地が豊かな土壌かどうか、またおいしい水が流れているかどうか、そうしたことでシロップの味が大きく変わってくるのです。何代にも渡って砂糖カエデの林を守り、家族でシロップづくりを続けてきたシュガーシャック(砂糖小屋)ごとに、メープルシロップの味わいが異なるのです。世界のメープルシロップの約8割がカナダ産で、そのうちの約9割をケベック州産が占めています。その理由は、砂糖カエデの原生林が北米大陸の東部、カナダのアメリカの一部にしかないから。それなら、土地によって、時期によって、シュガーシャックによって味わいの違うメープルシロップを知るには、実際にカナダに足を運んでシュガーシャックを訪れるしかありませんよね。