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ジェリー・クック:1ドルで駅舎を買い取り、レストランとしてオープン

ジェリー・クック:1ドルで駅舎を買い取り、レストランとしてオープン

「ロッキーの宝石」と呼ばれる湖、レイク・ルイーズ。その駅はもう、本来の駅ではありません。かつてレイク・ルイーズ駅だった建物は今、レストランになっています。大陸横断鉄道を建設し、お城のようなバンフ・スプリングス・ホテルを建て、カナディアンロッキーへ観光客を呼び込んでいたカナダ太平洋鉄道(CPR)は1989年、貨物輸送に特化することとし、旅客事業から撤退しました。旅の主役はいつしか、列車ではなく飛行機や自動車になっていたのです。

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観光客が乗り降りしなくなった駅舎を買い取り、「レイク・ルイーズステーション カフェ&ビストロ」に生まれ変わらせたのが、ゼネラルマネージャーのジェリー・クックさんです。 「駅がなくなってしまうのは本当にさびしいと思った。だからCPRの責任者に会って『あの駅をどうするんだ』と聞いたら、『1ドルで売ってやる』と言われたんだ」とジェリーさん。ただし、1ドルで駅舎を譲る条件は、引き続き貨物列車を運行するCPRの乗務員のための宿舎を建ててほしい、というもの。ジェリーさんはこの粋な提案を受け入れ、駅舎をきれいに改装し、すぐ横に宿舎も建て、 1991年にレストランとしてオープンさせたのです。

ジェリーさんの父親は蒸気機関車のエンジニアでした。こどものころに何度か父親に蒸気機関車に乗せてもらって以来、ジェリーさんはずっと蒸気機関車が大好きなのです。「それは本当に素晴らしい思い出だ。車両も車輪もエンジンもすべてが大きいし、機関車が動くシステムもすごい。まるで動くアートのようだ。オイルの臭い、木が燃える臭い、石炭が燃える臭いも好きだ。わたしは蒸気機関車が大好きなんだ」。駅舎のレストランのすぐ近くには、CPRで使われていた本物のダイニングカーとビジネスカーが置かれています。動かなくなったダイニングカーは、グループ客の食事用です。

一方、ビジネスカーとは、客車の最後にCPRの最高幹部用の車両が連結された列車で、幹部はここに寝泊まりしながらカナダ中を飛び回って仕事をしていました。現代ならさしずめ飛行機のビジネスクラスのようなものでしょう。このビジネスカーの中にはジェリーさんの書斎がつくられています。時々自宅に戻らずにここで寝泊まりしてしまうのは、やはり蒸気機関車が大好きだからでしょうか。そしてレストランの前には、おもちゃの機関車のような看板が置かれています。駅と蒸気機関車へのジェリーさんの愛があふれているかのような光景です。