世界中の人々が気候変動の影響を肌で感じるようになった今、環境保護の重要性はかつてないほどに高まっています。人間の活動が気候変動や地球温暖化の一因であることは、科学的にもコンセンサスができあがっており、ダメージを抑え、絶滅の危機にある自然や野生動物を守ることは、私たち人間の責任にほかなりません。
世界がめざすゴール:パリ協定では、平均気温の上昇を1.5度以内に抑えることが世界の国々の目標として掲げられました。こうすることで気候変動による最悪の影響を少しでも軽減できるからです。しかし、この目標に達成するための時間は限られており、心して目標に到達する必要があります。
4月11日はアースデー(地球の日)。メディアでもこうした報道が増えてきます。
時代の先駆者として:先住民には、代々伝わる生物種、生息環境、生態系に関する知識があります。カナダ国立公園管理局の環境保護専門家は、こうした知識が豊富な先住民と連携しながら、環境保護に取り組んでいます。この国立公園管理局は、地球温暖化の影響を少しでも抑えるため、陸と海の環境保護を専門としています。実は陸や海は、有害な温室効果ガスを吸収するとともに、土地の固有種の保護区域にもなります。国立公園局では、カリブーの個体数回復、国立公園内の防火対策に始まり、カナダの生物多様性保全に向けた長期的な計画に至るまで、幅広い事業に取り組んでいます。
毎日が〝アースデー〟:カナダ全土で環境保全や野生生物保護について知識を深める機会がたくさんあります。もちろん、気候変動との戦いにも貢献する一助にもなります。そんな機会になりそうなスポットをご紹介します。
ニューファンドランド&ラブラドール州
➢ テーブルランドは、5億年前地球の地下深くから流れ出た上部マントルが地表に押し上げられて形成されたものです。古代にプレート同士がぶつかった際、マントルが上に押し上げられ、アパラチア山脈が形成され、地球上の全陸地が一体化した超大陸、パンゲアが生まれました。それから4億年の歳月をかけて、山脈は次第に侵食されていきました。その結果が、グロス・モーン国立公園に広がる赤茶けた不毛の大地なのです。この本来なら見られない地中深部のマントルの上でハイキングが楽しめます。国立公園管理局のガイド同行ツアーに参加するもよし、自分のペースでのんびりと散策するもよし。この壮大な地球の歴史を自分の足で確かめてみてはいかが。ポイント:環境保護の最初の一歩は、全体像を把握することです。
アルバータ州
➢マヒカン・トレイルでは、バンフの山の草地や森林で「薬草探しウォーク」を開催しています。このツアーでは、風邪やインフルエンザに効くファイヤーサイダー用の薬草や、食べられる植物、焚き木の焚き付けに使える草木など、サバイバルに欠かせない山野の植物の使い方を先住民のガイドが教えてくれます。ポイント:先住民に伝わる知恵には、長い歴史の中で育まれた、自然と調和して生きるための術が詰まっています。
➢ ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)に登録されているエルク・アイランド国立公園(エドモントン)は、カナダのバイソン保護活動の本拠地です。カナダ国立公園局の活動で特に大きな成功を収めているのが、絶滅寸前だったバイソンの保護活動です。エルク・アイランドに保護区を設定し、1世紀以上にわたってバイソンが個体数を増やすことに成功しました。同公園では、バイソンを始めとする野生動物の観察のほか、ハイキング、カヌーといったアクティビティ、バイソンに関する学習、考古学研究、星空観察などの学習プログラムもそろっています。ポイント:地球を守る活動の成功例やモデルケースがたくさんあります。
➢ コックレンにあるヤムヌスカ・ウルフドッグ・サンクチュアリーでは、保護されたウルフドッグ(「狼犬」とも。イヌとオオカミの交雑種)に出会えます。 ここでは、私たちの生態系でオオカミが果たしている重要な役割や、オオカミにまつわるさまざまな神話・伝説が学べます。また、敷地内でウルフドッグの群れとふれあうこともできます。このサンクチュアリーには現在、40頭のウルフドッグが暮らしており、その多くは、希望者が里親制度を利用して引き取って育てることができます。ポイント:健全な生態系の維持に、オオカミは極めて重要な役割を果たしています。
ノバ・スコシア州
➢ユネスコ世界ジオパークに登録されているファンディ・クリフには、生態学的に非常に珍しい地形が集まっています。車で165キロほど走ると、超大陸パンゲアのなごり、カナダ最古の恐竜の骨、世界最大の干満差を誇るファンディ湾、ミクマク族の伝説やアカディアンの伝承にも登場する光景など、地球の自然史を体感できる40以上の地形が現れます。このエリアをガイドツアーか自分のペースで散策したら、ファンディ・フード・トレイル沿いで地元の味を堪能。保護活動や地域の歴史を知るには、博物館や案内センターがおすすめ。FORCE(ファンディエネルギー海洋研究所)やミクマウェイ・ディバート案内センターなどがあります。ポイント:この地域は、アマゾンの熱帯雨林よりも豊かな生態系や海洋生物多様性に恵まれています。
➢世界初の「スターライト・ホテル」(星空観察に適した宿泊施設)に認定されたトラウト・ポイント・ロッジに宿泊してみましょう。このスターライト・ホテル認定制度は、スターライト財団が認定し、ユネスコが後援しています。この辺りは、北米屈指の暗い夜空があり、星空観察に最適。同ロッジはガイドによる星空観察会を開催している高級施設です。また、トビーティック・ウィルダネス・エリアの中心で、エコツーリズム・アドベンチャーも楽しめます。同施設では、ガイド付きのジオツアーも開催しており、地質活動による地形の成り立ちや、生態系の中での人間の活動について学びます。同ロッジのレストランは、サステナビリティへの取り組みでカナダで初めて国際的な認定を受けたことで知られ、宿泊施設としては、グリーンキー認証(5グリーンキー)を取得しています。ポイント:夜空のコンディションは、学術研究、文化、環境、観光のすべての面で重要な資源であり、保護・保全の価値があります。
➢ ノバネイチャー・アドベンチャーズでは、ノバ・スコシア州の自然や文化に親しみながら環境保護活動に参加できる機会を用意しています。同社は、少人数グループを対象に、短距離ハイキング、野生生物データ収集、参加型自然体験などのアドベンチャー企画を手掛けており、半日コース、宿泊コースなどがあります。ツアー企画には、沿岸や海洋(水中を含む)の野生生物観察ボートツアー、ミクマク族文化・ケルト文化・アカディアン文化の体験ツアー、野生生物研究専門家が同行する自然散策ツアーなどがあります。ポイント:サステナビリティ意識の高い運営会社が手がける環境保護活動への参加機会を見つけましょう。
ニュー・ブランズウィック州
➢ グランド・マナン島にある海洋研究キャンプ施設、ホエール・キャンプでは、クジラ、イルカ、アザラシ、ツノメドリなど海洋生物の観察ができます。参加者は、調査船で海の自然生息域に移動し、クジラの分布や捕食パターン、行動パターンを記録するためのデータ収集作業に参加します。また、船内に設置された海洋生物学研究機材の使い方を学んだり、潮溜まりや湿地の生き物の調査したりする機会もあります。ポイント:クジラや海洋環境の保護は、回り回って私たち、さらには人類全体を守ることにもなるのです。
➢ セント・アンドリュースにあるハンツマン海洋科学センターでは、「潮溜まりトレッキング:イソガニつかみ取りツアー」を開催。水族館では味わえない楽しい企画です。ツアーは2時間。ファンディ湾の沿岸を歩きながら、ヨーロッパミドリガニなどの外来種について学びます。例えばヨーロッパミドリガニは、1950年代に大西洋沿岸の海洋生態系に持ち込まれ、今では生息域で在来種を上回るほど数を増やしています。ツアー参加者が収集を支援した重要データは、カナダの海の外来種に関する政府の調査にも反映されます。ポイント:外来種を管理する方法はさまざま。実は採取して食べてしまうことも対策の1つです。
➢ 同じくセント・アンドリュースでは、セント・アンドリュース・スポーツ・フィッシングがカナダサメ保護協会と提携し、ファンディ湾のサメの保護・保全活動に協力しています。同社が実施しているのが、サメ釣りツアー(全行程4〜6時間)。といっても、遊びで釣り上げるわけではありません。サメ研究を専門とする生物学者チームに同行し、サメを捕獲してタグを付けてから海に戻す作業を見学します。こうすることで、サメの生息数、移動状況、行動の調査が可能になります。ポイント:人間にとってサメは危険だと言われますが、実はサメに対する人間の危険性のほうがずっと深刻なのです。
ユーコン準州
➢ 2022年、ユーコン準州政府がさまざまな実習ボランティアを募集する「ラジッド・アプレンティス」プログラムの呼びかけでカナダ全土から集まったボランティアらが、観光インフラや地元アトラクションの改善に取り組みながら、カナダ北部の魅力を引き出しています。プロジェクトはさまざま。例えば、カーマックスのマーブ・ティウ公園では、ピクニックテーブルやベンチなどを刷新しました。ワトソン・レイクにあるサインポスト・フォレストでは案内標識の改善、ドーソン・シティではクロッカス・ブラフというディスク・ゴルフ・コースのメンテナンスを実施しました。 どのスポットも、コミュニティ・コンサートやヘリコプター・ツアーから、ガイドが案内するハイキングやグルメツアーまで、参加者向けに文化・観光体験を用意しています。ポイント:ボランティア活動は、カナダを体感する絶好の手段。しかも、地域貢献にもなります。