のどかで郷愁を感じさせる列車の旅。 時間の流れとともに、車窓に広がる景色もゆったりと変わっていきます。この風景は、飛行機や自動車では味わえない鉄道ならではの魅力です。気の向くままに歩き回ったり、気の合う旅仲間がいればおしゃべりに興じたり。また、路線次第では、軽食や本格的な食事も車内で楽しめます。
広大な国土:鉄道の旅と言うと、ヨーロッパを思い浮かべる人が少なくありませんが、実は世界最高の列車の旅、〝ランドクルーズ〟に匹敵するルートはカナダにもあるのです。カナダには1000万平方キロ近い広大な国土(日本の約24倍)があり、6つの時間帯にまたがっています。それだけに、さまざまな景色に次から次へと出会える魅力があり、長旅でもあきることがありません。例えば、西海岸のブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーと東海岸のオンタリオ州トロントの距離ひとつとってみても、ロンドンからモスクワまでの距離の1.5倍ほどあるのです。また、一部の列車にはガラスドーム型展望車両もあり、カナダらしい壮大な風景を絶えず味わうことができます。
蒸気を上げて出発進行:19世紀、蒸気機関車の登場とともに地域の輸送に革命がもたらされました。その後は、鉄道を抜きにカナダという国の発展を語ることはできません。カナダ初の鉄道は、ケベック州のラ・プレリーとセントジョンズを結ぶシャンプラン・セントローレンス鉄道(1836年開通)でした。その3年後、ノバ・スコシア州のアルビオン鉱山からピクトゥ近くの積荷港まで石炭を輸送するため、沿海州(ニューブランズウィック州、ノバ・スコシア州、プリンス・エドワード島州)で初の鉄道であるアルビオン鉱山鉄道が開通しました。1881年には、東部と西部を結ぶカナダ太平洋鉄道(CPR)が誕生します。コンフェデレーション(連邦結成)の礎となり、この鉄道建設はカナダの土木事業の中でも屈指の偉業とされています。現在、カナダの鉄道遺産は全国各地で目にすることができます。
威風堂々たるタワー:例えば、オンタリオ州トロントにあるCNタワーは、鉄道用地に建設されました。元々は鉄道の操車場だった場所でしたが、郊外の利便性のいい場所に移転し、跡地にタワーが誕生したのです。列車で夢を:カナダには、19世紀末から20世紀初頭にかけて国有鉄道会社や独立系のホテル運営会社が建設した鉄道ホテルがいくつかあります。カナダ太平洋鉄道がオーナーとして1888年にオープンしたフェアモント・バンフ・スプリングス(アルバータ州バンフ)と1893年にオープンしたフェアモント・ル・シャトー・フロントナック(ケベック州ケベックシティ)、また、1903年から1970年までカナダ太平洋鉄道が経営していたアルゴンキン・リゾート・セント・アンドリュース・バイ・ザ・シー(ニュー・ブランズウィック州セント・アンドリュース)などが挙げられます。史上初:カナダ初の先住民所有鉄道であるシェイワタン鉄道輸送は、ウアシャット・マク・マニ・ウテナム(Uashat Mak Mani-Utenam)、マティメクシュ・ラック・ジョン(Matimekush-Lac John)、カワワチカマクの各ネーションが共同所有の形をとっています。路線は全長213キロに及び、ニューファンドランド&ラブラドール州エメリルとケベック州シェファービルを結んでいます。
乗ってみたい5つの路線:カナダで鉄道の旅の魅力をたっぷり味わえるお薦めのルートがあります。以下の5路線は、カナダ屈指の美しい風景が堪能できるだけでなく、この地域の歴史や文化にもふれる機会がたくさんあります。さまざまな大都市を訪ねる旅には、VIA鉄道がお薦め。オンタリオ州トロントやケベック州モントリオール、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーなどの大都市をサステナビリティ意識の高い移動方法で快適に周遊できます。
➢ ロッキー・マウンテニア鉄道「ファースト・パッセージ・トゥー・ザ・ウェスト」号:他の列車の旅では体験できないカナダ太平洋鉄道の歴史的な区間を走る豪華列車の旅です。特殊設計の列車には、ぐるりと全景が見渡せるガラス張りの天井を採用、視界を遮られることなく、美しいカナディアン・ロッキーの勇姿を存分に楽しむことができます。この列車は日中のみの運行のため、夜はホテルで宿泊となります。旅の日程は数種類があり、バンクーバー、ウィスラー、カムループス、ジャスパー、レイク・ルイーズ、バンフに立ち寄ります。このロッキー・マウンテニア号による列車の旅は、旅行ガイド『ロンリー・プラネット』の「最優秀サステナブルな列車の旅」賞に輝いています。ルート:ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーから、アルバータ州レイク・ルイーズやバンフまで。1泊〜12泊。
➢ オーシャン号:カナダの都市間旅客鉄道サービスであるVIA鉄道のオーシャン号は、カナダ沿岸諸州全長1,346キロを1日(夜行もあり)かけて走り抜きます。1904年に運行を開始したオーシャン号は、愛称付き旅客列車としては北米最長の連続運行記録を持っています。停車駅の主要都市は、ケベックシティとモンクトンですが、沿線にはフレンチ・カナディアン、アカディアン、ケルト人、イギリス人の伝統を受け継ぐ小さなコミュニティが点在します。パノラマの展望車両がある食事付きの夜行寝台列車の旅を楽しめます。ルート:ノバ・スコシア州ハリファックス〜ケベック州モントリオール
➢ ウィニペグ〜チャーチル線:VIA鉄道のアドベンチャー・ルートで北の白い大地・カナダを2日かけて走るパノラマ・ドーム付き寝台列車です。永久凍土の大地をここまで北上する路線は、この路線を含め、わずかしかありません。マニトバ州の端から端まで駆け抜ける旅です。車窓に広がるのは、緑豊かなプレーリー(大草原)の風景、手つかずの荒野、まばゆいばかりの湖、亜寒帯林、広大なツンドラ。条件さえ整えば、オーロラを目にすることも。チャーチルに到着したら、ベルーガ(7〜8月)やホッキョクグマ(10月〜11月)といったカナダの北極に近いエリアに生息する動物を間近に観察できるオプションツアーに参加してみましょう。ルート:マニトバ州ウィニペグ〜チャーチル
➢シャルルボア鉄道:ケベックシティからセントローレンス川の北岸沿いを走り、いくつかの海辺の町や村を結ぶこじんまりとした路線です。1日かけての往復の旅でも、ベ・サン・ポールやラ・マルベといった目的地で数時間の現地滞在が確保できます。また、現地での宿泊を組み合わせた2日以上の旅にしてもいいでしょう。車窓からは、岩だらけの断崖、海、原始林、かすみのかかった空、大空を舞うサギの姿などとともに、小さな村々が見えてきます。お薦めシーズンは、6月ごろから10月ごろです。ルート:ケベック州ケベックシティ〜ラ・マルベ
➢アガワ・トレイン:往復463キロの列車の旅。オンタリオ州北部の楯状地のどこまでも続く広大な森林、北部の湖畔や川岸を走ります。向かう先はアガワ渓谷。列車の車窓から素晴らしい風景を堪能できる往復旅行です(片道4時間)。はるか高架を走る鉄橋を渡り、車窓に見えてくるのは、荒々しいまでの手つかずの風景。この見事な風景は、画家集団「グループ・オブ・セブン」を始め、数々の風景画家を魅了してきました。オジブウェー族の豊かな歴史、さらにはこの広大な大自然と関わった毛皮商人、探検隊、事業家らの足跡に思いを馳せてみましょう。シーズンは8月ごろから10月ごろまで。ルート:オンタリオ州スー・セント・マリー発の往復の旅