格式ある赤い制服に身を包み、馬を巧みに操る警官――。カナダでお馴染みの光景です。その名は、王立カナダ騎馬警察隊(RCMP)。パレードやイベントなどの会場で見かけた方も多いのではないでしょうか。その騎馬警察隊が今年、大きな節目を迎えます。RCMPの原型となった北西騎馬警察が議会で法制化され、国王の裁可を経て誕生したのは、1873年5月23日のこと。後に王立カナダ騎馬警察隊に再編されています。つまり、2023年5月23日は、王立騎馬警察隊150周年に当たります。カナダの国家警察隊に位置付けられる王立騎馬警察隊の隊員は、国民の間で「マウンティー」の愛称で親しまれています。
カナダ西部を管轄地として300人体制で発足したRCMPは、今や3万人の隊員を擁し、世界的に有名な組織に発展しています。世界的に見ても独特の警察隊であるRCMPは、オンタリオ州とケベック州を除く全州・準州で、国、連邦、州、地方自治体にまたがって活動する警察機関とされています。また、国際的な治安活動や平和維持活動にも従事しています。活動の変遷:RCMPの150周年は、カナダの発展に果たした役割を振り返るとともに、未来に向け、時代に即して多様性やインクルージョン(誰もが分け隔てなく参加・活躍できること)への取り組みを発信する大きな機会と言えます。150周年を記念してカナダ各地では、地域を挙げてのバーベキュー大会や各種レース、サンセット・セレモニーなど、多彩なイベントが開催されます。サスカチュワン州レジャイナでは、RCMPの新入隊員向け訓練機関やRCMPヘリテージ・センター(資料館)のお膝元とあって、施設を一般開放するオープンハウスやパレード、歴史展示などが予定されています。
誕生のきっかけ:かつてサスカチュワン州の先住民ナコダ族の集落で子供を含む20人以上が銃で襲われるというサイプレスヒルズ虐殺事件が発生しました。現場から逃げ延びた人々も、食料不足などで多くが命を落としました。こうした事件もきっかけとなって創設されたのが、北西騎馬警察でした。北西騎馬警察が発足し、虐殺事件の捜査に力そ注いだ背景には、カナダ政府に対するナコダ族の信頼を集めようとした政治的な判断がありました。
先住民の心の癒しへ:すべてのRCMP隊員は、レジャイナの訓練部で訓練を受けます。今日では、この施設は、先住民の苦難の歴史に向き合い、先住民との和解に努める活動に従事しており、さらなる前進に向けて取り組んでいます。歴史を振り返れば、殺害されたり行方不明になったりしている先住民が多数います。こうした悲しい歴史に答えを出そうと活動する草の根グループの手で、レジャイナに「反省の地」(The Place of Reflection)と呼ばれる施設が設置されました。委員会が設立され、RCMPは、ヘリテージ・センターに隣接する訓練施設の敷地の一部を提供しました。先住民アーティストが長老らの助言を受けながらデザインした反省の地には、現在、メディシン・ホイール(古代に先住民が作った一種のストーンサークル)の彫刻がシンボルとして置かれています。ここにある石の数は、カナダで行方不明になった先住民の数を表しています。2021年6月にカムループス先住民寄宿学校跡地から無記名の墓が見つかったことを受け、さらに石が追加されています。この反省の地を訪れる場合には、決まりごとがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
現地に足を運べば、騎馬警察隊の歴史とそれを取り巻く出来事にますます関心が深まるはずです。
- 格式ある制服:RCMPの赤い制服は、カナダのシンボルの1つとなっていますが、実はこの制服を着用するのは、儀式に限定されています(ほとんどの隊員は通常業務では、青か茶の制服を身につけています)。マウンティーの制服の維持管理にはかなりの手間がかかっています。例えば、茶色の革の乗馬靴は、所定の光沢具合に仕上げるまでに25時間以上も磨く必要があるそうです。
- RCMPは引っ張りだこ:ポップカルチャーの世界でも、RCMPの人気ぶりがうかがえます。1990年代半ばに大ヒットとなったカナダの人気ドラマ『騎馬警官』は、まさしくRCMP隊員をテーマにしていました。アニメ番組『ロッキー&ブルウィンクル』にも、マウンティー隊員のキャラクター、ダドリー・ドゥーライトが登場します。このキャラクターは後に、独立したアニメ番組に発展しています。
- 制服に光る勲章:RCMP隊員は、勤務5年ごとに赤い制服の左上腕部に星が1つずつ増えていきます。また、20年、25年、30年、35年と勤続期間が長期になると、それぞれの色の飾りひものついた勲章が授与されます。
儀式用の制服をまとったマウンティーは、カナダのシンボル。観光客の間でも関心が高く、記念撮影に引っ張りだこです。RCMPゆかりの場所をピックアップしました。
- 本拠地:RCMPヘリテージ・センターは、サスカチュワン州レジャイナにある非営利組織・博物館です。過去から現在までのさまざまな資料、展示品、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)を駆使した体験、ライブショー、そして「反省の地」など多彩な内容で、100年以上にわたるRCMPの歴史を紹介しています。また、同じくレジャイナには、RCMP訓練施設があり、1885年から隊員の訓練が実施されています。1885年から1920年まで、同訓練施設は北西騎馬警察(後に王立北西騎馬警察)の本部としても使われました。
- RCMPによる巡回ショー:RCMPミュージカルライドは、毎年5月から10月にかけて、最大50カ所の地区で開催される募金イベントです。伝統、栄誉、誇りの象徴として、32人の隊員が騎乗し、音楽に合わせて編隊や乗馬訓練などの馬術を披露します。2023年はBC州、アルバータ州、マニトバ州、オンタリオ州、ケベック州、プリンス・エドワード島州、ニュー・ブランズウィック州、ノバ・スコシア州、サスカチュワン州での開催が予定(仮)されています。
- 馬とのふれあい:オンタリオ州オタワには、RCMPミュージカルライドに登場する馬の厩舎があります。夏の間は、無料のガイド付きツアーが実施されていて、馬とのふれあいや騎手との交流が楽しめるほか、マウンティー・ショップではRCMPのオリジナルグッズも購入できます。