国連の国際女性デー(3月8日)は、社会、経済、文化、政治など、あらゆる分野で女性が達成してきた成果をたたえる日とされています。実はカナダも昔から幅広い分野で、多くの女性の活躍とともに前進してきました。今回は可能性の限界に挑み、歴史に名を残してきた辣腕の女性たち、そして今も時代をリードするカナダの女性たちをご紹介します。
戦う女性:スタージョン・レイク・クリー族の出身で、シンガーソングライター、ミュージシャン、伝統ドラム演奏家、アーティストなど多才ぶりを発揮するマトリシア・ブラウン。そんな彼女がアルバータ州ジャスパーで、参加体験型のストーリーテリング、歌、暖炉を囲んでの語らいを通じて、先住民の文化・歴史を案内するプライベートツアーを主催しています。ドラム演奏グループのウォーリアー・ウィメンの一員でもあるマトリシアが開催する暖炉を囲んでの語らいでは、赤々と燃える火を参加者と囲み、マトリシアが娘のマッケンジーと一緒に物語やドラム演奏、歌唱を披露し、先住民文化について語ります。
先住民リーダー:イヌイットの指導的立場にあり、元大使でもあるメアリー・サイモンは、2021年7月26日、カナダ総督に就任しました。先住民として初の総督就任という歴史的快挙を成し遂げました。彼女はキャリアを通じて、北極圏問題や先住民問題に光を当て、イヌイットの権利、子供、教育、文化の擁護を訴え、国際的な評価を集めています。なお、サイモンは、ヌナビクのカンジクスアルジュアク出身です。
パドルの先駆者:女性のためのカヌー教室を運営する女性組織「パドル・ライク・ア・ガール」(オンタリオ州)の創業者、トリ・ベアード。体型、年齢、経歴を問わず、あらゆる女性が大自然の平穏や美に出会える支援をしたいという思いから、この事業に乗り出しました。ベアードが手がける週末カヌー・ワークショップでは、バックカントリーの冒険の楽しみ方を女性たちに指南しています。こうした取り組みを通じて、自らの限界を打ち破り、意志があれば何でも達成できることを自ら体現してもらうための場でもあります。
ノバ・スコシア州の黒人文化:大の旅好きでノバ・スコシア州ハリファックスに暮らす起業家でもあるルネ・ボードローは、同州の黒人の歴史・文化の振興、黒人所有企業の支援に取り組む「エレベート・アンド・エクスプロア」を立ち上げました。また、ノバ・スコシア州の見聞を深めてもらうことを目的に数々のストーリーを紹介するため、「エレベート・アンド・エクスプロア」自転車ツアーを企画。ハリファックスの黒人文化とゆかりのある重要スポットを巡ります。
ファッショニスタ:キャサリン・アダイは、アフリカをテーマにした女性ファッション・ブティック、カエラ・ケイ(オンタリオ州トロント)の創業者・デザイナーです。学校での専門教育を受けていないアダイは、独学でデザインや裁縫、会社経営を身につけました。現在、彼女の手がけたデザインは、明るく美しいアフリカン・アンカラ(別名アフリカン・ワックス)プリントを前面に押し出していて、トレイシー・ムーアやビジー・フィリップスなどの有名人に支持されています。
障害者の権利を訴える活動家:ブリティッシュ・コロンビア州サンシャイン・コーストに暮らすサラ・ドハティは、13歳のときに交通事故で右足を失う被害に遭いました。加害者は飲酒運転でした。そんな不幸を跳ね除け、登山家、スキー滑降選手、起業家として活躍。講演会では聴衆の意欲を引き出す講演に定評があります。全国障害者スキーチームの創設メンバーであり、片足のない登山家として世界で初めて北米最高峰デナリ(旧マッキンリー山)の登頂という快挙を成し遂げています。また、小児を対象とした作業療法士の資格も持ち、適応型歩行器「サイドスティックス」を開発する企業の共同創業者でもあります。この歩行器は、限界に挑み続ける人々を対象に、心血管機能促進のフィットネスをサポートしています。
私たちのまわりにいるスーパーヒーロー:ブリティッシュ・コロンビア州を本拠地とする航空会社イスクウェウ・エアのパイロット兼オーナーのティアラ・フレイザーは、米国出版社DCコミックス発行のグラフィックノベル「ワンダフル・ウィメン・オブ・ヒストリー」に取り上げられた「パワフルな女性18人」の1人。メイティ(先住民とヨーロッパからの移民の間に生まれた人々の子孫)であるフレイザーは、「女性」を意味するクリー族の言葉にちなんで、24時間チャーターフライトサービスの会社を立ち上げました。前出のグラフィックノベルで紹介されている女性たちについて、フレイザーは、抑圧的な制度を打ち破ろうと格闘しているリーダーと見ています。堂々と自らに挑み続けるすべての人々が暮らしやすい世界を生み出そうと戦っているスーパーヒーローは、私たちのまわりに実在するのです。なお、同グラフィックノベルには、フレイザーのほか、ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビヨンセ、セリーナ・ウィリアムズらの名前挙がっています。
スペースドクター:オンタリオ州出身のロベルタ・ボンダー医師は、宇宙を旅した初の神経科医にしてカナダ初の女性宇宙飛行士という光栄をにないました。ボンダーは、ミッションSTS-42(1992年1月22日〜30日)の一員としてNASAのスペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、スペースラブ(宇宙実験室)で40を超える実験に取り組みました。彼女が担当したのは、人体に対する微小重力の効果の研究で、この成果を踏まえ、NASAでは、宇宙飛行士による宇宙での長期滞在に対応できるようになりました。
食の世界もダイバーシティ:ヌナブト準州在住のシェフ、シーラ・フラハーティは、自他ともに認めるイヌクシウティット(イヌイットの食・料理)の第一人者です。料理人対決番組『マスターシェフ・カナダ』に出演したほか、カナダ訪問中のロイヤルファミリーに提供する料理を担当したこともあります。また、最近では、試食会を通じてイヌイット文化の普及促進に当たる団体、シジャクットを創設しました。カナダ北部ヌナブト準州に暮らす彼女の自慢は、トゥクトゥビニク(カリブー)、アムーマジュク(ホッキ貝)、イカルク(ホッキョクイワナ)などの新鮮な食材。イヌイットのコミュニティで使われるこうした野性味あふれる食材は、彼らの栄養源であるとともに、独自の文化を育む原動力となっています。
これまでの常識を覆す:アイスホッケー女子カナダ代表チームのマリー・フィリップ・プーリンとサラ・ナースは、玩具メーカーのマテルとのコラボレーションにより、アイスホッケーをテーマにしたバービー人形を開発、カナダのカフェ・チェーン、ティム・ホートンズで販売されました。収益はすべてホッケー・カナダ・財団の「Hockey is Hers initiative」(「ホッケーは彼女たちのもの」プロジェクト)に寄付されました。このプロジェクトは障壁を乗り越えて試合に出場する女子選手を支援するものです。
歴史的フライト:2020年、カナダの歴史上初めて乗員すべて女性というフライトが実現しました。国際女性デー(3月8日)を含む1週間は航空女性週間とされています。エア・カナダでは、この航空女性週間を記念して、オンタリオ州トロントからアルバータ州エドモントンへの特別フライトを実施しました。
スピードスケートの女王:マニトバ州ウィニペグ在住のシンディ・クラッセンは、冬季五輪で金1個、銀3個、銅2個のメダルを獲得、メダル獲得数で最多の記録保持者です。また、1回の冬季五輪での獲得メダル数最多記録も持っており、イタリア・トリノ大会(2006年)で5個を獲得しました。
催し物:カナダの女性の地位向上や支援を目的に、国内でいくつかのフェスティバルやイベントが生まれています。
➢ WNORT:起業家・イベントプロデューサーのヘザー・オデンダールの提唱で誕生。企業の経営幹部への道を歩んでいる女性たちのための集まりを探したものの、見つけることができず、自ら立ち上げました。年に1度のコンファレンスは、増加傾向にある女性幹部のコミュニティを支援し、それぞれの分野でリーダーをめざすための交流の場やリソースの提供に取り組んでいます。
➢ フェム・フォーク・フェスト(オンタリオ州ウォータールー):毎年、国際女性デーを皮切りに2週間開催されるフェスティバルです。女性であることを自認するアーティストのコミュニティ、対話、評価の場となります。
➢ シージャンプス – ゲット・ザ・ガールズ・アウト:ファーニー・アルパイン・リゾート(ブリティッシュ・コロンビア州)との提携の下、国際女性デーと連動した国際プロジェクトです。無料のバーチャル借り物競走を通じて、女子に外に飛び出そうと呼びかけるイベントです。活動は、スキーでもハイキングでも近所の公園の探索でも、とにかく外に飛び出し、特定テーマに沿ったミッションをクリアする内容です。こうした活動を通じて、アウトドアのスキルやメンタルフィットネスを身につけてもらうことを目的としています。
セントジョンズ国際女性映画祭(ニューファンドランド&ラブラドール州セントジョンズ):映画・テレビ産業でのジェンダー格差を世に問い、国内外の映画やテレビの世界でクリエイティブワークに進出する女性を応援します。毎年10月に開催し、内容充実の映画業界フォーラムも同時開催されます。