今も実際に使われている運河としては北米最古の歴史を誇る美しいリドー運河(オンタリオ州オタワ)。カナダらしい重要な見どころの1つで、多くの観光客を集めています。夏には、各種水泳大会の会場として使われるほか、クルーズ船が行き交い、毎年恒例のカナディアン・チューリップ・フェスティバルの時期には観光客が水路で会場に向かう姿が見られます。また、同運河のクルーズ船上で国立芸術センター管弦楽団による演奏が楽しめる企画もあります。冬は運河全面に氷が張り、オタワのダウンタウンを貫く全長7.8キロの巨大スケートリンクに変身します。自然結氷のスケートリンクとしては世界最大規模を誇り、ギネスブックにも登録されています。このスケート場は、オタワで毎年恒例のウィンタールード・フェスティバルの会場でもあり、ホースレーシング、氷上ドラゴンボート・レース、冬のトライアスロン、ちびっ子アイスホッケーなど楽しい催しが目白押し。
運河建設の驚くべき秘密:リドー運河は、米英戦争が激化する中、アメリカのカナダ侵略に備え、1826年から1832年にかけて建設されました。この難事業を指揮することになったのが、イギリス工兵隊のジョン・バイ中佐でした。イベリア半島を巡るフランスとの半島戦争での活躍で知られた人物です。建設工事にはスコットランドの石工を中心に、フランス、アイルランドからの労働者、さらには先住民の労働者が参加しました。数々の閘門:運河完成時の全長は202キロ。北端はオタワ市街地からオタワ川、南端はキングストン、オンタリオ湖、セントローレンス川を結んでいました。運河には、閘門(水量調節のための水門)47カ所と、閘門の開閉操作をするロックマスターが常駐する「ロックステーション」23カ所があり、自然に形成された周囲の河川や湖とをつなぐ手掘り・手作業区間もあります。2007年にリドー運河はユネスコ世界遺産に登録されました。建設後、同運河は貿易に使用されましたが、この辺りにも鉄道が敷設された結果、貨物輸送の用途は鉄道に取って代わられました。その後、運河の主役は遊覧船や釣り船になりました。
暮らしに根付いたスケート:スケートリンクの氷品質管理を担うカナダ首都委員会では、カールトン大学と共同で、気候変動対策やスケートシーズン中の気候変動による影響緩和に取り組んでいます。この共同の取り組みでは、何十年もの伝統を誇るリドー運河のスケートを守るため、地元の天候や氷の厚さ、積雪量のモニタリング、将来動向予測モデルの開発、氷の強靭性向上策の研究に向けてデータを収集しています。
四季折々の運河:リドー運河は四季を通じてさまざまな観光が楽しめます。カナダの首都の中心を貫くリドー運河は、年間を通じて、地元の住民にも観光客にも愛されています。リドー川とカタラキ川という2つの河川、さらにいくつかの湖も運河の一部に使われています。リドー運河の運営に当たっているのが、国立公園管理局(パークス・カナダ)です。
➢冬:シーズン中は休みなし24時間利用可能な全長7.8キロのスケートリンク。利用は無料です(スケートリンク区間の3カ所にスケート靴やソリのレンタル所があります)。売店やトイレ、飲食店もあり、名物スナック「ビーバーテイル」(ビーバーのしっぽを模した平たい形状で多彩なトッピングを載せた揚げパン)やホットチョコレートも楽しめます。ここを訪れると、このスケートリンクが地元住民の暮らしの一部になっていることに気づきます。例えば、スケートで通勤・通学する人々が普通に見られるだけでなく、地元ラジオ局が放送する冬の朝の交通情報では、スケートリンク氷の状態に関するレポートもあるのです。
➢春:春を迎えると、急激な洪水を防ぐため、リドー川の氷を人為的に破壊し、オタワ川に安全に水を流す作業が始まります。氷が解けた時期の観光の相談は、リドー・トレイル協会へ。リドー運河やオタワとキングストンを結ぶ支流の周辺に広がる全長387キロのトレイルを管理しています。同協会では、ガイド同行のハイキングツアーやダウンロード可能なマップを提供しています。
➢夏:キラキラと輝く運河の水面に誘われるように、アウトドア好きな地元の住民や観光客が集まってきます。ダウズ湖パビリオンには、スタンドアップパドルボード(SUP)、カヌー、カヤック、足こぎボートのレンタルがあり、日差しを浴びながら湖上の午後をのんびりと過ごすことができます。また、リドー・カナル・クルーズ(営業期間は5月中旬〜10月中旬)が実施している電動ボートのガイド付きクルーズ(英仏2カ国語対応)もあります。水上以外にも、運河周辺のアクティビティとしては、週末に自動車の通行が禁止されるクイーン・エリザベス・ドライブという通りで、サイクリング、ローラースケート、ジョギングが楽しめます。
➢秋:運河沿いの並木が赤やオレンジ、黄と鮮やかな秋色に染まります。紅葉が美しい運河沿いの小道を散策はもちろん、運河にいくつもある閘門のうち、ハートウェルズにある閘門(No9、No10)やダウズ湖の近くにある樹木園もお薦めのスポット。約35万平方メートルに及ぶ広大なエリアに色とりどりの珍しい樹木が栽培されています。秋はパティオ(中庭)で過ごすのにぴったりの季節。カナダ国立芸術センターは、併設レストラン「1 Elgin」のパティオを改装、壁面を開閉可能なガラス張りにして暖房を導入しました。同レストランは、フェスティバル・オブ・スモール・ホールズとの提携により、運河に浮かぶステージの生演奏と豪華ディナーを組み合わせた「シェフズ・テーブル」(2022年8月18日〜9月11日)というイベントを開催します。