多文化主義とメープルシロップを知る旅
カナダの代名詞、メープルシロップをテーマに、オタワからモントリオール、そして大注目のエリア、イースタンタウンシップスをめぐります。旅のキーワードはカナダの「多文化主義」と、カナダ人がよく口にする譲歩という意味の「compromise (コンプロマイズ)」。カナダは互いを理解し、譲り合いながら世界中の人や文化、食を温かく迎え入れてきました。カナダは世界と 「TSUNAGARI(ツナガリ)」続けてきた国なのです。首都オタワは、かつてカナダを奪い合ったイギリス系とフランス系両住民の融和を象徴するような街です。そのオタワにいるカナダ総督には移民や難民、さまざまな国の出身者が就任して国家元首の役目を果たします。移民がモントリオールに持ち込んだ食は、今やカナダ中で愛される味になりました。そして旅人を包み込んでくれるのは、先住民がヨーロッパからの入植者に伝えたメープルシロップの甘い香り。カエデの樹液を煮詰めただけの、混ざりけのないピュアな甘さをカナダは大切に守り続けています。どうしてカナダの人たちが、シーズン最初のメープルシロップを味わう春のパーティーを何よりも心待ちにしているのか。それを知った時、あなたにとってカナダはより一層、大切な場所になるに違いありません。
多文化主義とメープルシロップを知る旅
カナダの代名詞、メープルシロップをテーマに、オタワからモントリオール、そして大注目のエリア、イースタンタウンシップスをめぐります。旅のキーワードはカナダの「多文化主義」と、カナダ人がよく口にする譲歩という意味の「compromise (コンプロマイズ)」。カナダは互いを理解し、譲り合いながら世界中の人や文化、食を温かく迎え入れてきました。カナダは世界と 「TSUNAGARI(ツナガリ)」続けてきた国なのです。首都オタワは、かつてカナダを奪い合ったイギリス系とフランス系両住民の融和を象徴するような街です。そのオタワにいるカナダ総督には移民や難民、さまざまな国の出身者が就任して国家元首の役目を果たします。移民がモントリオールに持ち込んだ食は、今やカナダ中で愛される味になりました。そして旅人を包み込んでくれるのは、先住民がヨーロッパからの入植者に伝えたメープルシロップの甘い香り。カエデの樹液を煮詰めただけの、混ざりけのないピュアな甘さをカナダは大切に守り続けています。どうしてカナダの人たちが、シーズン最初のメープルシロップを味わう春のパーティーを何よりも心待ちにしているのか。それを知った時、あなたにとってカナダはより一層、大切な場所になるに違いありません。
1日目
旅の出発地はカナダの首都オタワ。ただしここは、首都とは思えないほど「こじんまり」&「のんびり」した雰囲気に包まれています。街のランドマークである国会議事堂「パーラメント・ヒル」の前の芝生では、コンサートや花火大会が開かれるというフランクさ。国の記念日には議事堂の建物がプロジェクションマッピングで彩られたりします。市民の台所であり観光スポットでもあるバイワードマーケットは歩いてすぐそこ。 そして毎年5月から8月には1000人もの人が議事堂前に集まってヨガのレッスンをします。日本の国会議事堂では想像すらできない光景です。でもそれが当たり前にできてしまうのがオタワ。きょうは首都なのに、首都らしくないフレンドリーな街オタワを満喫しましょう。
TSUNAGARIポイント
リドー運河
世界遺産のリドー運河は、オタワからオンタリオ湖畔の古都キングストンまで、全長202キロを結ぶ水上交通路です。オタワでは絶対に外せない見どころの1つでしょう。1800年代はじめ、イギリスおよびその領土であるカナダと、アメリカの間で戦争が起き、終戦後にイギリスはリドー運河の建設に着手しました。再びアメリカが攻め込んできて両国間に横たわるセントローレンス川を封鎖されたら物資輸送が困難になるため、迂回ルートとして運河を造ることにしたのです。ただし、アメリカが結局攻めてこなかったため、リドー運河は1832年の完成以来、戦争に使われることはありませんでした。代わりに運河には観光船が行き来し、冬はギネスに認定された世界一長い天然スケートリンクに変身します。苦労して作った長大な運河なのに、その使い道は観光船とスケート。なんともカナダらしい平和な光景だとは思いませんか。
チューリップ・フェスティバル
オタワでは毎年5月、 「チューリップ・フェスティバル」が開かれ、街はチューリップの花で埋め尽くされます。この美しい光景は、カナダとオランダの「TSUNAGARI」によって生まれました。第2次大戦中、ドイツに占領された祖国を逃れ、オランダの王女がオタワに避難していました。王女はオタワ市民病院で第三子を出産しますが、オランダ生まれでなければ王位継承権が与えられません。そこでカナダは、王女の病室を一時的にオランダ領にするという粋な計らいをした、という逸話が残されているのです。厳密に言うと、生まれた子供にカナダ法が適用されるとイギリスとの二重国籍となり、王位継承の支障になりかねないため、病室をカナダ法の適用除外にしたというのが真相のようです。しかし、法律的な難しい話はともかく、カナダの計らいに感謝し、以来、オランダがずっとカナダにチューリップを贈り続けてくれているのが何よりも素晴らしいことです。チューリップに包まれたオワタを訪れる時にはそんな「TSUNAGARI」の物語も思い出してください。
ビーバーテイルズ
1978年にオタワで生まれたお菓子「ビーバーテイルズ」。丸くて平べったいビーバーのしっぽそっくりなスイーツは、今やカナダ全土で愛されています。ビーバーはカナダの「国獣」。カナダ人が特別な愛着を持っていることからこそ、スイーツもこんな形になったのでしょう。ビーバーテイルズの生地は先住民のパン「バノック」から生まれたとも言われています。パンは普通、焼く前に発酵させるのでフワフワですが、バノックは発酵させずに焼くので固めでもっちりしています。ビーバーテイルズもバノックのように発酵させない粗びきの小麦粉で生地をつくります。お客の注文を受けると店員さんが生地をビーバーのしっぽのようにのばして油で揚げてくれます。定番のトッピングはシナモンシュガー。チョコレート&バナナやマシュマロも人気です。せっかくオワタに行くのですから、発祥の地で「ビーバーのしっぽ」にかじりついてみませんか。
Canapedia フランス、イギリス、アメリカとオタワ
Canapedia ビーバーがいっぱい
カナダ総督とオバマ大統領
2日目
オタワでの2日目は、郊外にあるシュガーシャック(砂糖小屋)「ウィラーズパンケーキハウス」を訪れましょう。シュガーシャックとはメープル農家のこと。ただしメープルシロップを生産して販売するだけでなく、レストランを併設していたり、昔のメープルシロップづくりの様子を学べる展示があったりします。 「ウィラーズパンケーキハウス」もその名の通り、メープルシロップとの相性抜群のパンケーキや、シロップで甘く味付けしたソーセージを楽しむことができます。
TSUNAGARIポイント
メープルシロップのつくり方
2月末から3月の始め、日中の気温が2〜3度、夜間がマイナス1度ぐらいになると、砂糖カエデの木は内部にほのかな甘みを持つ樹液「メープルサップ」をたくわえるようになります。幹に小さな穴を開けて専用のタップ(蛇口)を取り付けると、樹液は真下に取り付けたバケツにポタリポタリ。この樹液こそメープルシロップの原料です。近年、タップにはバケツの代わりにパイプがつながれ、樹液はシュガーシャックの大きなタンクに集められるようになったため、樹液をバケツから大きな樽に集め、馬が引く橇(そり)で運ぶ光景も見られなくなりました。しかし、どんなに技術が進化しても、樹液が甘くなるのは厳しい冬が終わるこの時期だけ。だからカナダの人たちは一年分のメープルシロップをすべて春先に作ってしまいます。糖分2~3%の樹液は煮詰められ、やがて黄金色に変わります。健康な砂糖カエデと栄養豊富な土壌、そしてその土地を流れる水だけが味を決める、そんな混ざりなしの甘さこそがメープルシロップなのです。
Canapedia 石のようなメープルシロップ
3日目
3日目はオタワを発ち、トロントに次ぐカナダ第2の都市、モントリオールに移動しましょう。イギリス系が多いオンタリオ州にあって、フランス系が多いケベック州に接していたオタワとは違い、モントリオールはまさにフランス系文化の中心地。「北米のパリ」の異名を持ち、ダウンタウンには趣ある石造りの建物や石畳の街路が広がっています。ただし、モントリオールは単なるフランス系文化の中心にはとどまりません。この街には世界中から移民を受け入れてきたという一面もあるのです。ですからモントリオールでは、ぜひカナダが目指し続けている「多文化主義」を体感してほしいのです。
TSUNAGARIポイント
メープル・ディライツ
バンクーバーやケベック・シティにも店舗を構えるメープルシロップの専門店「Maple Delights(メープル・デイライツ)」。ダウンタウンにあるモントリオール店は、メープルシロップやメープルのシュガー、バターといった関連商品はもちろんのこと、メープルシロップを使ったマフィン、タルト、ワッフル、クッキー、キャンディー、ジェラートなどがずらりと並んでいます。さらにメープルを使った石けんや化粧品などもあって、まさにメープルづくしのお店なのです。それだけでも訪れる価値あり、なのですが、メープルの甘さと香りを堪能したあとは店舗の地下に降りて、ぜひメープルシロップの歴史がわかるミニ資料館を見学してください。砂糖カエデの樹液を採取するのに使った古い道具や、昔のメープルシロップづくりの様子を伝える写真などを見ることができます。ずっと昔から、ケベックの人にとってメープルシロップの甘さがいかに大切なものだったかを感じられるはずです。
モントリオールという街
モントリオールにはフランス系カナダ人だけでなく、世界中にルーツを持つ人がたくさん暮らしています。 ユダヤ人が多いのも1つの特徴ですし、フランス語が通じることが理由の1つなのでしょう、カリブ海のハイチやアフリカ出身の人もたくさんいます。第27代総督ミカエル・ジャンさんもハイチ出身でした。だからこの街は多様性に富み、さまざまな文化やアート、音楽に溢れています。そして街の公共スペースをイベント用に開放する 「フェスティバルの街」であることもモントリオールを活気いっぱいにしています。街をキャンパル代わりにアートでいっぱいにしたり、モントリオール国際ジャズフェスティバルをはじめ、コメディや舞台芸術などのイベントが一年中開かれています。世界的なデジタルアート集団「モーメント・ファクトリー」がノートルダム大聖堂を舞台に繰り広げるマッピング・ショー「AURA(オーラ)」も見逃すことはできません。
スモークミートとベーグル
モントリオールでぜひ味わっておきたいのが「シュワルツ」のスモークミート・サンドイッチと、モントリオールベーグルです。 いずれもユダヤ系移民が持ち込み、世界中から来た人に愛され、ついにモントリオールを代表する味になりました。ルーマニア出身のシュワルツさんが持ち込んだスモークミートは、パストラミのように見えて実は真逆。食べるとスパイシーなお肉からたっぷりの肉汁がジュワッと溢れ出てきます。一方のベーグルは、ニューヨークと並ぶ北米2大ベーグルの1つです。焼く前にハチミツの入ったお湯でゆでるのがニューヨーク式との決定的な違い。だから食べると口の中にほんのりとした甘さが広がるのです。モントリオールを代表するベーグル店 「フェアマウント・ベーグル」と「セント・ビアター・ベーグル」はそろって365日・24時間営業。そしてガスではなく、窯の中で薪の炎で焼くのもいっしょです。窯から出てきたばかりの焼き立てモチモチのベーグルが楽しめるのは、モントリオールに住む人の特権かもしれません。
究極のB級グルメ「プティーン」
カナダを代表するB級グルメと言えば、間違いなく「poutine(プティーン)」でしょう。この高カロリーで極めて背徳的な食べ物は、移民が持ち込んだものではありません。モントリオールで生まれたれっきとしたカナダ・オリジナルです。まずはたっぷりのフライドポテト。そこにトッピングするのは、チーズの製造過程で牛乳のたんぱく質が固まってできる「チーズカード」なる食べ物。最後に上から肉汁で作ったグレービーソースを回しかけます。これがオリジナルスタイルなのですが、ケベックで愛され続けるうちにプティーンは進化を遂げ、肉やらソーセージやらをトッピングした新メニューもたくさん生まれています。プティーンとはケベックの俗語で「ぐちゃぐちゃ」という意味。「ぐちゃぐちゃ」で高カロリーにもかかわらず、おやつに、食事代わりに、飲んだあとの「シメ」にと、プティーンはカナダで愛され続けているのです。
Canapedia メープルシロップには等級がある
Canapedia 世界の料理がカナダ料理
4日目
旅の4日目はモントリオールの東、車で1時間ほどのところにあるイースタンタウンシップスに移動します。イースタンタウンシップスというのは地名ではなく、セントローレンス川とアメリカ国境との間にはさまれたエリアの呼び名。まだ日本ではあまり知られていませんが、イースタンタウンシップスは別荘が点在し、酪農や果樹栽培が盛んな大注目の高級リゾート地です。フランスの田舎によくある料理自慢のホテル「オーベルジュ」では、リンゴからつくるお酒「シードル」やワインを楽しみながら、名物の鴨料理を堪能することができます。そしてここは、なんと言っても、世界有数のメープルシロップの産地なのです。
TSUNAGARIポイント
イースタンタウンシップスと王党派
イースタンタウンシップスは、フランス系カナダ人が多く暮らすケベック州に属しているため、話される言語もフランス語が中心です。しかし中には、英語を話す人ばかり、という街もあります。かつてイギリスからアメリカが独立した時、イギリスに忠誠を誓う「王党派(ロイヤリスト)」と呼ばれる人たちが国境を超えてカナダにやってきました。その多くはアメリカ発祥の地であるニューイングランドと隣接するノヴァ・スコシア州に政治亡命しましたが、国境を接するイースタンタウンシップスにもたくさんの王党派が移り住みました。このためイースタンタウンシップスは、フランスとイギリスの文化が融合した独特の雰囲気を持つエリアとなりました。そして、その距離の近さから、アメリカからもたくさんの観光客が訪れる高級リゾート地となっているのです。
リンゴ畑とシードル
果樹栽培が盛んなイースタンタウンシップスにに広がるリンゴ畑。ここでは、リンゴのお酒「シードル」がたくさんつくられています。「シードル」とフランス語で呼ばれていることからも、ここがフランス文化に彩られた地であることが分かります。リンゴ果汁を発酵させたお酒はスペインでは「シードラ」、イギリスでは「サイダー」です。サイダーと聞くと、日本ではノンアルコールの炭酸飲料を思い浮かべますが、イギリスで「サイダー」と言えば立派なお酒。ただしアメリカでは、お酒の方は「ハード・サイダー」、炭酸飲料は「サイダー」は呼ばれるので少しややこしいですね。そしてカナダのシードルを特徴づけているのがアイス・シードルの存在です。実ったリンゴを雪をかぶる季節までそのままにしておき、糖分がぎゅっと凝縮されてからお酒にします。今やカナダ土産の定番となったアイスワイン以上に、日本では入手困難なお酒です。やはりこうなれば、ケベックに行くしかありませんね。
「ピック・ボア」最上級のシュガーシャック
数あるケベックのシュガーシャック(砂糖小屋)の中でも、最上級のメープルシロップをつくっているのがイースタンタウンシップスの「Pic Bois(ピック・ボア)」でしょう。最近では日本でもテレビや雑誌で取り上げられるようになりました。メープルシロップとは突き詰めれば、砂糖カエデの樹液を糖度3%から66%にまで煮詰めただけにすぎません。だからこそカエデの林がいかに健康で、その土地に栄養があっておいしい水が流れているかがシロップの質を左右します。そしてもう1つ、大切なのがその製法でしょう。現在ではほとんどのシュガーシャックが、パイプやポンプを使ってカエデの木々から樹液を大きなタンクに集め、逆浸透圧装置で水分を減らしたあと、ガスの炎で樹液を煮詰めます。しかしピック・ボアで採られているのは昔ながらの製法です。幹にバケツをぶらさげ、したたり落ちた樹液を手作業で集め、薪の炎で煮詰めていきます。こうしてできあがった希少なメープルシロップは、ケベック内でもトップクラスの評価を得ています。
For Glowing Hearts アンドレ・ポレンダー:昔ながらの製法でメープルシロップづくり
Canapedia シュガーリング・オフ・パーティー
5日目
旅の最終日は、自然豊かなリゾート地、イースタンタウンシップスを満喫しましょう。このエリアにはシードルをつくるリンゴ農家だけでなく、約20ものワイナリーが点在し、「ワイン街道」とも呼ばれているのです。ワイナリーをめぐってもよし、オーベルジュでゆっくり名物の鴨料理に舌鼓をうつのもよし。ここではきっと、心豊かな時間を過ごせるでしょう。そしてイースタンタウンシップス最大のみどころ、サン・ブノワ・デュ・ラック修道院を訪れて、カナダの多文化主義に触れるケベックの旅は終わりを迎えます。
TSUNAGARIポイント
サン・ブノワ・デュ・ラック修道院
日本ではほとんど知られていないイースタンタウンシップスで、さらに超穴場とも言える美しい修道院を訪れましょう。その名は「サン・ブノワ・デュ・ラック修道院」。メンフレマゴク湖のほとりに立つベネディクト派の修道院で、男子修道士が共同生活をしながら日々、祈り、そして働いています。毎朝行われるミサには一般の人でも参加可能。また修道士のつくるチーズは評判で、修道院の売店ではこのチーズやリンゴのコンポートなどをお土産を購入することができます。修道院の床のモザイク模様の美しさは一見の価値あり。に逃さないようにしてください。