世界最長の海岸線:カナダは、海岸のサステナビリティに積極的に取り組んでいます。 それもそのはず。 海岸線は実に24万3042キロと世界最長。しかも、淡水湖の数に至っては200万以上あります。 国境線のかなりの部分が太平洋、大西洋、北極海などの海に接しています。 また10の州・準州が海岸線を持ち、中でもニューファンドランド&ラブラドール州は最長の海岸線(2万8968キロ)を誇ります。一方、海岸線が最も短いのはユーコン準州。それでも海岸線は342キロと堂々たるものです。
水とのふれあいが生み出す充足感:調査によれば、水辺でも水中でも水上でも、水とふれあうことは、ストレスや不安の軽減、充足感や幸福感の増進、心拍数や呼吸数の抑制、安全で充実した運動など、私たちの心と体にさまざまなプラスの効果があるそうです。水と人間の関係に迫ったノンフィクション『Blue Mind』の著者で海洋生物学者のウォラス・ニコルスは、次のように語ります。「水とのふれあいが創造性を高め、会話の質を高め、遊びや恋愛、悲しみなど生活の中の重要な場面に彩りを添えることがわかりました。その根底には、水の安全性や清潔感、健康的な側面があります」。
カナダの海岸線は、保護対象の主要生態系である広域海洋管理海域(LOMA)として5つに区分されており、これを単位に保全、管理、計画立案に役立てられています。具体的には、太平洋北海岸、プラセンティア湾、東スコシア大陸棚、ボーフォート海、セントローレンス湾の5海域です。特に重要なのが、カナダの太平洋海域の4分の1近くを占める太平洋北海岸統合管理海域です。この海域は、イルカ、アシカ、アザラシのほか、27種のクジラ、海鳥、さらには9000年以上前に出現し、5階建ビルに相当する高さにまで成長するガラスカイメンのような古生物まで、多様な生物の生息域となっています。
海を舞台に持続可能な経済活動:これほどの海岸線があると、海洋研究の分野でも、海洋のサステナビリティを保全しながらの経済活動である「ブルーエコノミー」に古くからカナダがイノベーションやリーダーシップを発揮してきたことは当然と言えます。カナダのGDP全体のうち、ブルーエコノミーは年間360億ドルに達し、漁業・水産養殖業、海運、海洋エネルギー、海洋技術、海洋観光など35万人の雇用を創出しています。また、「オーシャン・スーパークラスター」というプロジェクトもあります。これは、海の再生可能エネルギーや造船、海運、海洋技術など、カナダの海で事業に携わる業界の力を結集したものです。このスーパークラスターは、こうした業界に先端技術を導入し、海での操業の最適化、持続可能な海洋資源利用の最大化、海洋環境で業務に従事する労働者・企業の安全性強化に取り組みます。現在、スーパークラスターは、カナダ各地で事業展開する450社ほどの会員企業で構成されており、過去3年だけを見ても、投資総額3億2000万ドルに上る64のプロジェクトが承認済みです。もちろん、研究者以外でも貢献できる海洋保全の取り組みはあります。例えば、2022年からカナダでは使い捨てのプラスチック製品6種(レジ袋、ナイフ・フォーク・スプーン類、ストローなど)を海・砂浜・海岸に放置する行為が禁止されました。この方針は、プラスチックゴミをなくし、温室効果ガス排出量を削減する連邦政府の取り組みの一環として採用されました。
重要ポイント:この分野でカナダは国際的に影響力が大きく、気候変動問題への対策でも極めて重要な役割を担っています。
グローバルリーダーとしてのカナダ:カナダには、沿岸部のサステナビリティに取り組む施設・団体が数多く誕生しており、世界的に高い評価を集めています。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーのバンクーバー水族館には、カナダ唯一の海洋哺乳類野生復帰専門拠点があり、野生動物救護に当たる世界最大級の「病院」として機能しています。同水族館では、毎年150件以上の海洋動物の救護、野生復帰訓練、野生復帰に従事しています。BC州ビクトリアにある海洋応用サステナブルテクノロジーズ(COAST)は、ブルーエコノミーの大きな原動力としての同地域の可能性を引き出すため、2021年に設立されました。COASTでは、海洋関連産業が抱える課題を解決することや、カナダ西海岸の企業が世界の海洋空間に関する大きな可能性を追求する支援を目的に掲げています。一方、カナダ東海岸のノバ・スコシア州ハリファックスでは、300以上の企業が海洋関連業界でのイノベーションに取り組んでいます。ハリファックスは、海洋関連分野の博士号取得者の数が世界でもトップクラスを誇るなど、多くの学術研究従事者が暮らしており、カナダ最大級の水産研究施設であるダルハウジー大学アクアトロン研究所もこの街にあります。また、ノバ・スコシア州ダートマスでは、ベッドフォード海洋学研究所が、環境保護、安全で広く開かれた水路、持続可能な天然資源利用など、海に関わるさまざまな課題に関して、政府の意思決定を支援するための重点研究を実施しています。
最高のビーチ:旅行者に注目していただきたいのが、世界最長の海岸線を堪能できる点。海岸のあるところにビーチあり。カナダはビーチも魅力にあふれているのですが、意外な穴場もたくさんあります。ビーチの管理も行き届いています。第三者機関のお墨付き:「ブルーフラッグ」賞は、環境、安全性、衛生の面で高度な基準に適合するビーチやマリーナに与えられる国際的な賞。カナダでは先ごろ、23のビーチが同賞に輝きました。そこでカナダのイチオシのビーチをいくつか紹介しましょう。
・プリンス・エドワード島にあるベイスン・ヘッドは、強風時や砂の上を歩くと音が鳴る「鳴き砂」で知られます。ベイスン・ヘッドを流れる河口流域は海洋保護区に指定されています。
・ニュー・ブランズウィック州のホープウェル・ロックスは、世界一の干満差を誇るファンディ湾の観光に最適なスポットです。この辺りの海岸2キロにわたって、20以上の奇石が木のように海に並んでいます。これは波食によって孤立化した離れ岩です。
・オンタリオ州のワサガ・ビーチは、14キロ以上にわたって白砂が広がる世界最長の淡水ビーチ。ボードウォークやトレイルが整備されているほか、ウォータースポーツ用品のレンタル店、レストラン、多彩なショップなどがあります。
・ケベック州のマドレーヌ島は、セントローレンス湾に浮かぶ複数の小島で構成されており、赤褐色の断崖と白砂のビーチが目印です。8月ならぜひ訪れたいのが、アービル・オベール・ビーチ。世界最大の砂の城コンテストが開催されます。
・BC州トフィーノのロング・ビーチは、パシフィック・リム国立公園保護区にあり、バンクーバー島に広がる最長のビーチ(全長16キロ以上)の一部を構成しています。サーフィンの歴史も有名なほか、海岸沿いに原生林があるため、流木も多数見つかります。