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トム・トムソンの湖

トム・トムソンの湖

1900年代初頭に活躍した画家トム・トムソン(Tom Thomson)は、カナダで最も有名なアーティストと言っても過言ではないでしょう。カナダの自然をこよなく愛した彼の作風は独特なものでした。1912年にアルゴンキン州立公園にやってきたトムは得意のカヌーで公園内をめぐり、フィッシングやキャンプをしながら、目の前に広がる大自然を大胆な色使いと荒々しいタッチで描いてみせたのです。そこにはカナダらしい自然の力強さが表現されており、当時、ヨーロッパ絵画の模倣にとどまっていたと言われるカナダの芸術界に大きな影響を与えることになります。

しかし残念ながら、40歳の誕生日を目前にした1917年7月、トムは釣りに出かけたまま「カヌー・レイク」という湖で溺死してしまいます。公式にはカヌーでの事故となっていますが、トムがカヌーの名手だったこと、当日の天候が穏やかだったことから、一部では他殺説も・・・。

若くしての謎の死をとげたトム・トムソンですが、1920年、彼に触発された芸術家たちが「グループ・オブ・セブン」という芸術集団を結成したことで、その後も彼は伝説のアーティストとして大きなインスピレーションを与え続けることになります。トム・トムソンとグループ・オブ・セブンの作品と活動は、ヨーロッパともアメリカとも異なる、カナダの文化的ナショナリズムを定着させたと言われています。
アルゴンキン州立公園の玄関口、ハンツビルの中心部にはトム・トムソンの像があり、在りし日のトムの姿に思いをはせることができます。

その像に手にはノートパソコンのような道具が。これを使ってアルゴンキンの自然を小さく写しとり、あとでキャンパスに大きな絵画として描いたのでしょう。この便利な道具を積み込んだカヌーを自在に操り、アルゴンキンの自然をめぐり、気に入った場所でカヌーを停め、絵を描き、テントを張って眠りにつく。それは本当に、静かな時の流れなのだろうと想像できます。

トム・トムソンの名前がつけられた湖のほとりにテントを張り、時計ではなく、太陽の光の具合や、流れていく風が肌に当たる時の、その感覚で時間の移ろいを感じる。もしアルゴンキン州立公園でカヌーを体験する機会があったら、トム・トムソンが生きた頃と何も変わらない、静かな時の流れを感じてください。きっと他のアウトドアとは全く違う、インスピレーションを感じられるはずです。

<参照サイト>
Tom Thomson | National Gallery of Canada外部リンクタイトルe