毎日、膨大な情報に追われ、通勤・通学はストレスだらけ…。現代人の暮らしのペースは、急速に進化するテクノロジーに追い立てられるように忙しくなるばかり。いつでもネットに接続していなければならないという強迫観念にかられます。仕事や家庭はもちろん、友人との交流まで時間に追われて落ち着かない人々には、先住民の知恵に学んでみては? 心身の健康を大切にする先住民の考え方は、現代人の悩みを解消する大きなヒントになります。切っても切れない関係:カナダ先住民にとって、ウェルネスとリラクゼーションの根底には、土地との深いつながりや敬意があります。だからこそ、自然界との関係を深く意識することが穏やかさや癒しを促進するのです。こうしたしきたりは、環境のサステナビリティと切っても切れない関係にあり、実際、マニトバ大学の調査によれば、自然とのつながりに対する意識の強い人ほど「先住民族との和解」を積極的に支持する傾向が高いことが明らかになりました。
自然とのつながりを取り戻すことは決して難しいことではなく、例えば散策のときにしっかりと目的意識を持つだけでも、がらりと変わるのです。ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバーのタレイセイ・ツアーズなどのツアー会社は、スタンレーパークといった自然の散策を楽しむガイドツアーを実施しています。ツアーでは、先住民が何千年にもわたって食料や薬、道具に利用してきた樹木や植物を案内しています。マニトバ州チャーチルのワプスク・アドベンチャーズは、北方林での犬ぞりなど心に残る体験を通じて、北の大地に暮らすメイティ(先住民とヨーロッパ人の間に生まれた子孫)の文化や生活のペースを紹介しています。心拍数まで落ち着く効果:BC州ハイダ・グワイにあるスピリット・ベア・ロッジは、自然や野生動物をたたえる文化体験に興味のある旅行者を歓迎しています。「ここを訪れる人々の多くが人生観が変わったと言います。心拍数まで下がるんですよ」。スピリット・ベア・ロッジの支配人、ジョン・ゾーノバッジは、旅行専門サイト「Toque & Canoe」のインタビューでこのように話していまです。「ここでいろいろなことを体験しているうちに、パワーが宿るんです。だからお別れのときには涙を見せる人も多いです。本当に特別な何かから離れると実感するからでしょうね」。
心身を良い状態に:おすすめ先住民の自然体験
カナダには、先住民がオーナーや運営を手がける施設が多数あり、多忙な日常を忘れて、ゆったりと心休まるひとときを過ごせる機会を提供しています。今回紹介する宿泊施設は、はらはらドキドキの体験というよりも、ゆったり落ち着いて自然を満喫できるツアーを企画しています。自然環境に改めて敬意を持ち、理解を深めるきっかけになるはずです。
・クラフース・ウィルダネス・リゾート:ブリティッシュ・コロンビア(BC)州デソレーション・サウンドの温帯多雨林に囲まれたハンフリー海峡を望むクラフース・ウィルダネス・リゾートのオーナー経営者は先住民のクラフース族。文字どおり人里離れた海沿いの大自然の中で、自給自足の電源だけで運営されています。
ヒマラヤスギをふんだんに使ったロッジは、567平方メートルと大きく、さらに森の中には独立型の1部屋または2部屋のシャレー風コテージもあります。そこに広がるのは、心洗われる静寂の世界。時折、大空を舞うワシの鳴き声やハンフリー海峡で魚が飛び跳ねる音が響きます。営業期間は5月中旬から10月中旬。同リゾートを運営している先住民ガイドがトバ入江でのグリズリーベア観察、海釣りやヘリフィッシング(ヘリコプターでフィッシングスポットに移動する釣り)、コーテス島にあるクラフース族の文化拠点を訪ねるクルージングなど、文化体験や自然体験を案内します。アクセス:バンクーバーからパウエル・リバーに空路で移動後、車か船でリゾートへ。
・シャカト・タン・ウィルダネス・キャンプ:ユーコン準州のクルアニ国立公園にあるシャカト・タン・ウィルダネス・キャンプ(「シャカト・タン」は、サザン・タッチョーネ族の言葉で「夏の狩猟の道」の意味)は、代々先住民のオーナーが運営しています。このキャンプは、シャンペイン・アイシヒク族の先祖伝来の土地にあり、その長を務めたジェームズ・アレンと妻のバーバラがオーナーです。クルアニ湖を見渡すログ・キャビンに宿泊し、たっぷり充電。ユルト(テント)型のロッジには、食事や各種アクティビティに使われる快適なスペースがあります。同キャンプ周辺には、どこまでも続くトレイルが張り巡らされていて、徒歩やマウンテンバイクで散策が楽しめるほか、先住民ガイド同行のハイキングもあり、この地域の先住民に関するさまざまな知識を学ぶことができます。また、オーナー夫人のバーバラが講師を務める薬袋づくり、ドリームキャッチャー(お守り)づくり、伝統的なドラムづくりといったクラフト教室などの文化体験もあります。アクセス:空路でホワイトホースに入り、ここから車で3時間でシャカト・タン。
・ワンダケ:ケベック州にあるウェンダケには、ヒューロン・ウェンダット族の歴史や文化に敬意を込めた体験が豊富に揃っています。ケベックシティから車で30分のオテル・ミュゼ・プルミエ・ナシオン(ホテル・ミュゼ・プリミアズ・ネーションズ)では、アート感覚いっぱいの装飾品や緑豊かな森の景色、静寂に包まれたアキアウェンラク川の爽やかな水音など、ヒューロン・ウェンダット族の土地や文化にどっぷりと浸かることができます。同ホテルの威風堂々たる建築は、先住民の伝統的な住居「ロングハウス」にヒントを得たもの。それを取り囲む庭園やハイキング・トレイルはあれこれと思いを馳せたり、気分転換をしたりするのにぴったりです。近くにあるヒューロン・ウェンダット博物館は、ヒューロン・ウェンダット族の遺産の保護や振興を目的に設立されたもので、何千年にもわたる伝統に理解を深めることができます。アクセス:空路でケベックシティに入り、車で30分でワンダケ
・フロンティア・フィッシング・ロッジ:ルツェル・ケ・デネ族がオーナーのフロンティア・フィッシング・ロッジ(ノースウエスト準州)がリニューアル。小型飛行機で乗り入れが可能な宿泊施設として、過去60年間、神秘的な光が美しいオーロラ観賞や多様な野生動物の写真撮影、釣り三昧ののどかな日々を楽しもうと多くの旅行客に親しまれています。充実した淡水釣りや大自然を満喫する体験にとどまらず、カナダ最新の国立公園保護区となるテイディーン・ネイネイ国立公園保護区を舞台にした文化体験も揃っています。保護区には、先住民ガイドが案内するオーロラ観賞、ウェルネス施設、野生動物ウォッチングなどをテーマにしたツアーがあり、この土地が先住民のデネスリン族にとって精神的にも文化的にも重要な意味があることがわかります。アクセス:空路でイエローナイフへ。