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命のサイクル

カナダ太平洋岸には毎年、春から秋にかけて、無数のサーモンが押し寄せてきます。日本の「鮭」と同様、生まれ故郷で産卵するために川を遡上するのです。ただし、全てのサーモンが故郷にたどり着けるわけではありません。遡上の途中ではグリズリーベアがサーモンを待ち構えています。彼らは冬の冬眠に備え、サーモンでお腹をいっぱいにし、たっぷりと栄養を摂取する必要があります。

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またグリズリーが食べ残したサーモンは、小型の動物や鳥たちの食料となります。毎年、必ず川にやってくるサーモンは、森の生態系を維持する上でなくてはならない存在なのです。グリズリーには、捕らえたサーモンを口にくわえて運び、森の中で食べるという習性もあります。すると、グリズリーの食べ残しは分解されて森の植物の栄養となり、植物の実はやはり動物たちの食料となります。サーモンの死骸は森の木々の栄養ともなります。サーモンが遡上する川の周辺の森は、サーモンがいない森に比べて木々が大きく育つという研究結果もあるほどです。

さて、グリズリーに捕まらなくても、遡上の途中で力尽きてしまうサーモンがたくさんいます。何も口にせずに体をやせ細らせながらようやく生まれ故郷の川にたどり着いても、産卵を終えるとサーモンはやはり死んでしまいます。サーモンの体は水中で分解され、やがて孵化してくる稚魚たちの栄養となります。サーモンのおかげで動物たちは生きることができ、森の木々が大きく育ちます。

豊かな森からは川に栄養が流れ込み、やはりサーモンの稚魚を育ててくれます。ここにはサーモンを中心とした「命のサイクル」が存在するのです。そして人間もまた、「命のサイクル」の恩恵にあずかってきました。先住民は毎年必ずやって来てくれるサーモンを「神の魚」と呼んで主食とし、燻製などの保存食にして冬に備えました。現在、われわれがカナダで絶品のサーモン料理が楽しめるのも、この「命のサイクル」のおかげと言えるかもしれません。