地球温暖化問題が気になる旅行者が増えている今、新たな旅の形が求められています。カナダの都市は、歩行者や自転車に優しいデザインを採用しており、使いやすくて環境に配慮した公共交通機関が発達しています。しかも、その将来計画では、さらなる環境保全の強化を掲げています。
世界に先駆けて展開する環境対策:カナダは、運輸業界全体でイノベーションにいち早く取り組み、地域環境の保護に力を入れています。ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーを拠点とする航空会社ハーバーエアは、航空業界で斬新な路線を打ち出しています。2007年に世界初にして唯一のカーボンニュートラルなエアラインになりました。2019年、同社は世界で初めて電動商用機を導入し、2023年までにバンクーバー島を結ぶ路線で温室効果ガス排出ゼロのオール電化のフライトを開始する計画です。同社では最終的にde Havilland社製Beaverと同Otterの全42機を電化する予定です。
船・バス・電車:2022年、BC州のフェリー会社BCフェリーズでは、船舶向けの最先端のクリーン技術を生かし、ディーゼルと電気のハイブリッドエンジンを搭載した「アイランド・クラス」を導入します。同フェリーは、船内の自動車走行レーンが広く、歩行者専用路や自転車の駐輪スペースも確保されています。運航が開始されれば、世界で最も燃料効率が高く、静粛性でもトップクラスのフェリーとなります。ケベック州モントリオールでは、賑やかな商業地区であるサンテュベール広場沿いの渋滞を解消し、人々の移動を促進するため、電動シャトルバス(最終的に無人運転を計画)を導入します。2022年7月までに試験運行が始まり、全長2キロの循環経路を電気ミニバス2台が走ります。2021年、VIA鉄道はケベックシティとトロントを結ぶ路線を増発し、旅客・貨物のサステナブルな輸送力を大幅に増強します。
注目のプロジェクト:小さな取り組みであっても、都市景観に大きな効果をもたらす可能性を秘めています。アルバータ州エドモントンでは、新しい通勤・通学の手段として、また新たな観光資源(カルガリーでも同様のプログラムが実施中)として、電動キックボード(カナダでは「eスクーター」と呼ばれます)のレンタル・プロジェクトが始まりました。マニトバ州チャーチルでは、ツアー会社のフロンティアーズ・ノース・アドベンチャーズが新型のEV型ツンドラ・バギーを発表しました。これは、亜寒帯環境への負荷や騒音を抑えた温室効果ガス排出ゼロ車両です。同社では、保有するツンドラ・バギー全車両のEV化を計画しています。オンタリオ州ブラインドリバーでは、障害者でもサステナブルに旅を楽しめるように、バリアフリー観光とインクルージョン(誰もが分け隔てなく参加・活躍できること)を柱とするプロジェクトが進められています。
グリーンな未来へ:カナダ連邦政府が新たに4億ドルを投じたアクティブ・モビリティ(能動的な交通手段)推進プロジェクトの一環として、サイクリングロードや散策道の整備を拡充します。今後5年間に専用の予算を拠出して、歩道、自転車専用レーン、トレイル、歩道橋などの新設と既存施設の拡張が行われます。初の取り組み:カナダ全土でアクティブ・モビリティ専用の整備事業に連邦予算が拠出されるのは、今回が初となります。
そこで、カナダ全土で現在利用できるグリーンな交通機関・手段や今後登場予定の交通機関・手段の一部をご紹介します。
BC州
- 次世代スカイトレイン:BC州バンクーバーの公交通機関を統括する行政機関トランスリンクでは、高速鉄道(軽量軌道)線であるスカイトレインについて、需要の大きい地域を対象に増発と路線拡張を進め、輸送力倍増計画を打ち出しています。この計画では、バスの25%増便、新規運行エリア10箇所の追加も盛り込まれており、住民や観光客の公共交通機関の利用拡大を後押しします。すでにスカイトレイン・ネットワークの一部を構成するカナダラインは、州有電力会社BCハイドロから供給される再生可能燃料である水力発電電力を主に使用しています。
- ネットゼロの表明:BC州バンクーバーにあるバンクーバー国際空港(YVR)は、2030年までのネットゼロ達成という意欲的な目標を表明しています。同空港の業務は、廃棄物の埋め立ての抑制、現地生態系の保全強化、節水などの各種施策により、2020年以降、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量を実質ゼロにすること)を維持しています。また、「プロジェクト・グリーンYVR」と銘打ったプログラムを実施し、空港周辺の企業の廃棄物削減、節水、省エネを支援し、環境負荷抑制やコスト削減につなげています。
オンタリオ州
サイクリングの強い味方:オンタリオ州トロントには、トロント・サイクリング・マップという自転車専用地図があり、自転車専用ルート(車道と完全分離型や、車道とレーン分けされているもの)、お薦めルート、買い物や見学・遊びにお薦めのスポットへの接続ポイントを始め、トロントで自転車を楽しむための大切な情報など、市内の自転車関連情報が網羅されています。
- また、除雪・排雪、塩散布が実施されている冬のサイクリング・ルートにもスポットライトが当てられています。
- 歩行者専用通路:オンタリオ州オタワのオタワ川にかかるプリンス・オブ・ウェールズ橋は、元々、同州とケベック州を結ぶ鉄道橋として使われていましたが、現在、オタワとケベック州ガティノーを結ぶ自転車・歩行者専用の橋の改装工事が進められています。歩道は、現地に暮らす先住民族の1つ、アルゴンキン族の指導者として先住民族間の架け橋となることに生涯を捧げたウイリアム・コマンダ長老に敬意を表し、「ウイリアム・コマンダ長老橋」と命名され、2022年に公開されます。
- バスのEV化:オンタリオ州ブランプトンでは、画期的な電気バス実証実験が実施されています。電気バス導入により、2050年までに市内の温室効果ガス排出量を80%削減をめざします。標準規格に準拠し、完全な互換性を備えたバッテリーを搭載する電気バスと、経路上の高架から高出力の給電システムを備えたバス運行体制としては、世界最大規模となります。
- 市内に高速に移動:オンタリオ州トロントでは、トロント・ピアソン国際空港とダウンタウンのユニオン駅を25分で結ぶUPエクスプレスがあり、自動車に比べて手軽で高速、しかもサステナブルな移動が可能です。
- グリーンな移動:トロントの環境に優しい交通手段はこちらをご覧ください。
ケベック州
- 自転車専用道ネットワーク:全長5300キロを超える「ラ・ルート・ベール」は北米最長のサイクリング・コース・ネットワークです。ケベック州からオンタリオ州、ニュー・ブランズウィック州、さらには米国までさまざまな地域を結んで自転車移動を可能にしているため、沿道には多彩な設備や明確な標識が用意されています。それだけに、田園地帯のどかな田舎道から、車道と並走する自転車レーンや車道とは完全分離された自転車専用道など、体験できるサイクリング環境も無限大。こうした自転車道の多くは、廃線となった鉄道路線跡地を用途転換したもので、自動車交通からは十分な距離が取られていて、自然を肌で感じられます。
- 電気ライトレール:ケベック州モントリオールの新しいライトレールシステムであるREM(モントリオール都市圏電気軌道交通網)は、100%電気を動力にした鉄道システムで、市内のノースショア、ウエストアイランド、モントリオール・ピエール・エリオット・トルドー国際空港をダイレクトに結びます。開業は2022年夏を予定しています。
- グリーンな移動:モントリオールの環境に優しい交通手段はこちらをご覧ください。また、便利なサイクリング・ガイドはこちらからダウンロードできます。
アルバータ州
- 電気バス:カナダ最先端の電気バスを運行しているのが、アルバータ州エドモントンのエドモントン・トランジット・サービス(ETS)。現在、40台の電気バスが走っており、2021年終わりから2022年初頭にかけてさらに20台が投入されます。車両基地内で車両上部から充電できるシステムを北米で初めて導入したのがETSです。この方式によって、充電に使用する車内のフロアスペースが大幅に削減されました。ETSの電気バスは、1回の充電で最大400キロの走行が可能です。
スポットライト:BC州ならではの水上飛行機体験プラン
水上飛行機で旅をしたことがありますか。固定翼の水上飛行機に乗って、BC州沿岸の島々を渡り歩く旅はいかが。水上飛行機は、水上で離着陸し、通常の商用機よりも飛行高度が低いのが特徴です。このため、市街地、島々、海の素晴らしい景色を空から眺めながら、島から島へと渡る「アイランド・ホッピング」を楽しむことができます。航空会社ハーバーエアでは、2023年までにオール電化の商用機でバンクーバーとバンクーバー島を結ぶ路線を開設する予定です。
1日目:バンクーバーのダウンタウンにあるハーバーエアのターミナル(車か徒歩でアクセス可)からトフィーノ行きの水上飛行機で出発。サーフィンのメッカで、素敵なカフェが多く、定評あるレストランやフードトラック、そして絶景に恵まれた町、トフィーノは、バンクーバー島の西海岸の外れにあります。バンクーバーからフェリーでここに向かう場合は、6時間以上かかりますが、水上飛行機なら1時間足らずでトフィーノ港に到着します*。
- 到着したら、宿泊先のウィッカニニッシュ・インでチェックイン。周囲には、チェスターマン・ビーチの温帯雨林と海が広がります。至れり尽くせりのおもてなし、目の前に広がる絶景、高級感あふれるアメニティが楽しめます。
- 長期滞在の場合はパシフィック・サンズ・ビーチ・リゾートがお薦め。客室は目の前が海というビーチハウスなので、アウトドアでくつろぎの時間を過ごしたい家族連れに最適です。
2日目:トフィーノの旅と言えば大自然。日中は、チェスターマン・ビーチの散策(ウィッカニニッシュ・イン併設の彫刻工房では、地元彫刻家の作業風景を見学可能)や、パシフィック・リム国立公園でのハイキング。地元の人々に混じってサーフィンを楽しんでもいいでしょう(パシフィック・サーフ・コやサーフ・シスターでは初心者向けのサーフィン教室を実施中)。
- 体を動かしたら、次はトフィーノ・エアの観光ツアーを。30分間の沿岸探検ツアーでは、水上飛行機でコックス・ベイなどの広大なビーチや、ホエラー島、バーレット島などの景色を空中散歩で楽しみます。シャチやコククジラ、アシカ、クマ、ワシを目撃するチャンスもたっぷりあります。
- 夜は、ウルフ・イン・ザ・フォグというレストランでディナー。トフィーノの海や森の幸をモチーフにした極上の料理が楽しめます。
3日目:朝、オープンまもないロア・トフィーノで目覚めの栄養補給。焦がしバター、メープルシロップ、ホワイトチョコレートのホイップクリームがたっぷりのフレンチトーストなどのとろけるような味わいのメニューを始め、グリルしたアボカドや直火炙りキャベツのコールスロー、シトラス香る朝のグリーン野菜を使った地元の雰囲気あふれるアイランド・エッグ・パイ・サンドイッチなどがあります。そろそろ水上飛行機でバンクーバーに戻る時間。空中散歩で眺めた島々には後日、ぜひ訪問してみましょう。
*注:ハーバーエアのトフィーノとバンクーバーを結ぶ路線は季節運航(3月〜10月)です。