最近、よく耳にするようになった「クリーンテック」(クリーンテクノロジー)。実は私たちの暮らしの至るところで関わりがあり、明るい未来を切り拓く鍵を握っています。ではクリーンテックとはどういうものなのでしょうか。クリーンテックとは、業界標準と比較して、原材料やエネルギーの使用量が少なく、廃棄物も少なく、環境負荷が小さい技術や製品、サービスを指します。また、環境を守り、業界標準よりも優れた実績をあげるとともに、天然資源の責任ある使用をめざします。
グローバルリーダー:カナダは、グローバルなクリーンテック革命の主導的な地位にあります。単に産業を生み出すだけでなく、サステナビリティや再生可能エネルギー、気候対策など、国際的な課題に役立つイノベーションの機会も生み出しています。その優れた実績から、国際的な投資が殺到しています。最前線での取り組み:クリーンテックのイノベーションや商用化、導入を手がける企業を支援する「クリーン・グロース・ハブ」や、新たなサステナブル技術の開発・実証を助成する「サステナブル開発技術カナダ」といった連邦政府プログラムのおかげで、クリーンテック企業はカナダで大きな成長を遂げています。もちろん、グローバル・クリーンテック・イノベーション指標では、カナダはG20諸国で第1位、世界全体で第2位の座にあります。現在カナダには、850社以上のクリーンテック企業があり、このうち、2022年のグローバル・クリーンテック上位100社ランキングに13社が名を連ねています。売上高では年間133億ドルと、クリーンテックはカナダ経済にも貢献しています。北米最大級のインキュベーターであるMaRSのクリーンテック担当ディレクター、タイラー・ハミルトンは、次のように説明します。「カナダのクリーンテックを軸としたエコシステムは、グローバルに見てもますます存在感を強めています。クリーンテックのイノベーションを生み出して終わりではありません。社会的に大きな効果をもたらす企業を育み、社会がネットゼロをめざす中、気候変動問題や環境問題の解決策の実用化に道を切り拓いています」。
クリーンテックを支える女性たち:男性社会と批判されることの多いテクノロジー業界。しかし、変化の兆しが現れ始めています。新しい技術を開発するだけでなく、国際的な投資を呼び込み、技術の応用を促進する女性たちの活躍も目を引きます。スタートアップ企業のサミット・ナノテック社(アルバータ州カルガリー)の創業者・CEOのアマンダ・ホールは、MaRSディスカバリー・ディストリクトとナチュラル・リソーシズ・カナダによるクリーンテック分野の女性起業家支援プログラム「Women in Cleantech Challenge」でグランプリ賞金100万ドルを獲得しました。サミット・ナノテックは、リチウム抽出と電気自動車用バッテリー生産のサステナブルな手法の開発に取り組んでいます。「気候変動は世界が立ち向かう意義のあるテーマですから、女性たちが取り組みの声をあげていくことがとても大切です」とホール。彼女以外に、「Women in Cleantech Challenge」の最終選考に残った女性起業家としては、業務用・家庭用エアコンの消費電力を激減させる超薄膜ナノフィルムを製造するエバークローク社(オンタリオ州キッチナー・ウォータールー)のエバリン・アレン、海洋の温室効果ガス排出量や油流出、騒音のデータをリアルタイムに収集する太陽光発電式自律航行ボート製造のオープン・オーシャン・ロボティクス社(BC州ビクトリア)のジュリー・アンガス、100%天然由来で生物分解性に優れ、費用対効果も高い生物系界面活性剤開発を手がけるディスパーサ社(ケベック州モントリオール)のニバサ・バレンドラ、太陽光利用の化学反応システムで二酸化炭素リサイクルに取り組むソリストラ社(オンタリオ州トロント)のアレクサンドラ・タバソリ、食品廃棄物を生物分解性プラスチックに転換するジェネシス社(オンタリオ州トロント)のルナ・ユーがいます。
クリーンテック拠点:オンタリオ州トロント・ウォータールー地域、BC州バンクーバー、アルバータ州カルガリーは、世界のクリーンテック・エコシステム上位35にランキングされています。とはいえ、クリーンテックの拠点は、大学や政府機関、シンクタンクなども含め、カナダ全域に点在しています。例えば、連邦政府の取り組みである「農業クリーン・テクノロジー・プログラム」は、農業分野でのクリーンテック開発支援に2500万ドルを拠出していますケベック州を拠点とするエコテック・ケベックは、地元の同分野の成長促進に向け、意思決定権者の会合を開催しています。また、他に類を見ないクリーンテック・パークがプリンス・エドワード島州ジョージタウンで計画されています。MaRSクリーンテックでは、カナダの起業家が製品を市場投入する支援活動を展開しています。
協力体制:カナダと米国は先ごろ、クリーンテック、ライフサイエンス、サイバーセキュリティ、AIなどの分野での協力を強化しています。また、先住民の立場も含め、イノベーション促進に欠かせない多様な視点や知識体系を歓迎し、誰もが分け隔てなく参加・活躍できる科学研究コミュニティづくりに取り組んでいます。
以下は、カナダでサステナブルな未来のために力を発揮している企業の一例です。
オンタリオ州トロント:
カナダ最大の都市は、環境問題に対するクリーンテックの開発において、イノベーションの温床となっています。トロントのグリーン・マーケット・アクセラレーション・プログラムは、国産のグリーンテクノロジーの開発と商業化を促進しており、アドバンスド・エネルギー・センターでは、官民連携で革新的なエネルギー技術を促進しています。
ジェネシス社(Genecis)は、生ゴミを生分解性プラスチックやその他の素材に変換しています。一般的な堆肥化商品とは異なり、同社の製品は1ヶ月以内に堆肥化され、1年以内に分解されます。エコビー社(Ecobee)は、スマートサーモスタット、温度・照度センサー、スマートライトスイッチ、スマートカメラ、コンタクトセンサーといった機器を製造。これらの機器は、家庭の生活習慣を学習し、電力使用量を削減するように調整します。(エコビー社は、同社のスマートサーモスタットでラスベガスの1年分の電力を節約できると試算しています)。さらに、低所得者層が電気代を削減できるよう、2万台のスマートサーモスタットを配布しています。
バンクーバー(BC州) :
クリーンテックは、バンクーバーのグリーンエコノミーにおける主要な柱となっています。バンクーバーは、燃料電池、パワーエレクトロニクス、廃棄物処理技術のパイオニアであり、世界トップ10に入るクリーンテック・クラスターを有しています。
フラッシュフォレスト社(Flash Forest)は、気候変動対策としての植林活動を次のレベルへと進化させています。同社は、ドローンを使って、発芽済みの種子を1秒間に1個の割合で土壌に植えることで、2028年までに6大陸で10億本の植林を実現するという、より迅速で低コストな森林再生に取り組んでいます。アクサイン・ウォーター・テクノロジーズ(Axine Water Technologies)は、汚染度の高い産業排水を、厳しい環境基準に適合する水に変換しています。同社の技術は、抗生物質やホルモン剤などの物質が排水に流出しないよう、製薬業界で幅広く使用されています。
アルバータ州カルガリー
カナダのエネルギー産業の中心地であるカルガリーには、石油・ガス産業向けにクリーンテック製品やサービスを開発・提供する企業が140社以上あり、地域への経済効果は6億1,500万ドルにも上ります。
スワールテックス社(Swirltex)の水ろ過システムは、浮力を利用して液体と固体を分離し、汚染物質を除去するもです。従来のシステムよりも省エネで、鉱業、乳製品、飲料など幅広い産業に対応しています。ダークビジョンテクノロジーズ社(DarkVision Technologies) は、高解像度の超音波画像処理技術によって、石油・ガス生産者の操業コスト削減、生産量の増加、油井(ゆせい)の安全性の改善、そして環境への負担の最小化することに貢献しています。
モントリオール(ケベック州)
モントリオールは、最先端の技術、製品、サービスを提供する多様な企業や組織、ダイナミックな研究コミュニティ、高い技能を持つ労働力が集まる、クリーンテック分野のリーダーな都市です。
エフェンコ社(Effenco)のハイブリッドパワーシステムは、大型トラックに搭載することで、燃料消費と排出ガスを削減することができます。現在は、カナダ、米国、フランス、ノルウェーの配送トラックや廃棄物収集車に搭載されていますが、最近実施した1000万ドルの資金調達により、さらなる拡大を計画されています。ネクター社(Nectar)は、ミツバチの巣箱のセンサーと機械学習プラットフォームから得られる知見を利用して、養蜂家が、巣箱の個体数の変化、女王バチの存在、死亡率など、通常では収集が困難なデータにアクセスすることを支援しています。