サーモンと「命のサイクル」に出会う旅
「サーモン」をテーマに、カナダ太平洋岸を巡る旅。舞台となるのは世界一住みやすいと言われるバンクーバーと、「世界のサーモンの首都」を名乗るキャンベルリバーです。産卵のため生まれ故郷の川に戻るサーモンは、遡上の途中で動物たちの食料となり、産卵後は木々や川の栄養となって豊かな自然を育みます。その森を流れる川からまたサーモンが生まれ来る「命のサイクル」を大切にしながら、カナダの人たちはここで暮らしてきました。サーモンを釣り、サーモンといっしょに泳ぎましょう。グリズリーベアと出会い、巨木の森を歩きましょう。トーテムポールの文化を学び、サステイナブル(持続可能)な食に取り組む人々の思いにも触れましょう。そしてサーモンをめぐる歴史には、驚くことに日本人も深く関わっていました。この旅が終わるころ、カナダ太平洋岸はあなたにとって、忘れられない特別な場所になっているに違いありません。
サーモンと「命のサイクル」に出会う旅
「サーモン」をテーマに、カナダ太平洋岸を巡る旅。舞台となるのは世界一住みやすいと言われるバンクーバーと、「世界のサーモンの首都」を名乗るキャンベルリバーです。産卵のため生まれ故郷の川に戻るサーモンは、遡上の途中で動物たちの食料となり、産卵後は木々や川の栄養となって豊かな自然を育みます。その森を流れる川からまたサーモンが生まれ来る「命のサイクル」を大切にしながら、カナダの人たちはここで暮らしてきました。サーモンを釣り、サーモンといっしょに泳ぎましょう。グリズリーベアと出会い、巨木の森を歩きましょう。トーテムポールの文化を学び、サステイナブル(持続可能)な食に取り組む人々の思いにも触れましょう。そしてサーモンをめぐる歴史には、驚くことに日本人も深く関わっていました。この旅が終わるころ、カナダ太平洋岸はあなたにとって、忘れられない特別な場所になっているに違いありません。
1日目
バンクーバー着。コモックス、キャンベルリバーへ
日本を出発しておよそ9時間。バンクーバー国際空港に到着します。ここからは小型の飛行機に乗り換えてバンクーバー島のコモックスへと向かいます。空港内にはたくさんの先住民アートがあふれています。乗り継ぎまでの間、ぜひ先住民アートの数々に目を向けてください。
TSUNAGARIポイント
歓迎のトーテムポール
バンクーバー空港の国際線到着ロビーには、先住民ヌーチャヌルトゥ族のアーティスト、ジョー・デイビッドが製作した「歓迎のトーテムポール」があります。男女一対のこのポールは、1986年にバンクーバーで開催された「世界交通博覧会」のために作られました。今は、カナダの太平洋側の玄関口であるバンクーバー空港で、日本をはじめ各国からやってくる旅人を迎えてくれています。トーテムポールはただの彫刻ではなく、それぞれが固有のメッセージや先住民の部族の物語を伝えています。それにしても、こんなに巨大なポールを作れる巨木がなぜここで育つのか、その理由を知りたいとは思いませんか?空港での先住民アートとの出会いは、これから始まる旅の“序章”とも言うべきものなのです。
「サーモンの首都」キャンベルリバー
バンクーバー島の東、人口3万人ほどの小さな街キャンベルリバーは、古くからサーモンを狙う釣り人たちが集まる場所でした。そして街は大胆にも“SALMON CAPITAL OF THE WORLD”(世界のサーモンの首都)を名乗っています。街の中心部にあるディスカバリー桟橋では、平日だというのにサーモンを狙って釣り糸を垂らす地元の人の姿を見ることができます。釣り用のイスがあり、欄干には釣り竿を差し込む穴も設けられています。売店ではフィッシュ&チップスも売っているので、ここでは何時間でもサーモン釣りが楽しめそうです。サーモンの首都、キャンベルリバーでサーモン釣りは日常のこと。人々にとってサーモンの存在がどれだけ身近で大切なのかを感じられることでしょう。
For Glowing Hearts レジ・デビッドソン:ハイダ文化を現代に蘇らせる先住民アーティスト
2日目
グリズリーベアに出会う冒険ツアーへ
海辺のロッジで目覚めたら、早速グリズリーベアに会いに行きましょう。産卵のため川を遡上する無数のサーモンと、それを捕らえて食べるグリズリーベアを目の当たりにするワイルドなツアーに出発するのです。
グリズリーベアに出会うツアーの往復では、ボートの上からクジラやシャチを見ることができるかもしれません。カナダの太平洋沿岸は、黒潮が流れ込むことなどにより栄養が極めて豊富です。だからクジラなどの海洋生物や魚たちが集まってきます。
TSUNAGARIポイント
グリズリーベア ワイルドライフツアー
ペインターズロッジからボートに乗り込み、海峡を北へ。「ワイルドライフツアー」はその名の通り、檻に閉じ込められたグリズリーベアを見るのではありません。川岸や森を悠然と歩く姿を、一定の距離を保って遠目から「見せていただく」のです。目指す場所は先住民の土地。だからボートでは予め上陸にあたっての誓約書に署名を求められます。グリズリーと先住民の土地に「お邪魔」することを自分に言い聞かせましょう。ボートを降りて車で森に入っていくと、グリズリーたちが遡上するサーモンを捕らえて食べています。兄弟でしょうか、サーモンを仲良く分け合って食べる姿も見られます。「お邪魔」しているわれわれは、話す時もささやくようにします。カメラのフラッシュをたくことは厳禁です。本当に自然を大切にするとはどういうことなのか、きっと再認識できるに違いありません。ここでは「LEAVE」していいのは足跡だけ、「TAKE」していいのは写真だけ、「KILL」していいのは時間だけなのです。
Canapedia 命のサイクル
Canapedia 6種類もいるカナダのサーモン
3日目
サーモンを釣り、サーモンと泳ぐ
ロッジでの2日目。午前中はサーモン釣りに挑戦します。ガイドの方が疑似餌などの準備をしてくれます。アドバイスに従って釣り糸をたらすだけなので初心者でも安心です。そして午後はいよいよサーモンと泳ぐというイベントが待っています。
午後は、サーモンといっしょに川を泳ぐという、キャンベルリバーだけにしかないアクティビティに挑戦します。
TSUNAGARIポイント
ペインターズロッジとTREE CLUB
キャンベルリバーで宿泊するペインターズロッジは、古くからハリウッドスターらセレブが長期滞在し、巨大なサーモン釣りに挑戦する拠点となってきました。同時にここは、大物のサーモンを狙う釣り人の集まり「TYEE CLUB(タイイー・クラブ)」の表彰式の場としても親しまれています。「TYEE 」と呼べるのは30ポンド(約13.6キロ)超のサーモン。毎年、表彰式ではそのシーズンで最大の「TYEE 」を釣った人にダイヤモンド、70ポンド以上でルビーのピンが贈られます。ただし、大きければいいというものでもありません。例えば、あえて昔ながらの手漕ぎボードで巨大サーモンに挑戦するといった紳士のクラブらしいルールが存在します。ここではみんながサーモンを愛し、敬意を払って釣りを楽しんでいるのです。
ハッチェリー(孵化場)
自然豊かなカナダ太平洋岸でも、残念ながらサーモン資源は減少傾向にあります。このため「ハッチェリー(孵化場)」を舞台に、サーモンを増やすための取り組みが続けられています。遡上してきたサーモンから卵を採取して孵化させ、放流するのがハッチェリーの役割。放流の前、稚魚はハッチェリー生まれの目印として、尾に近い背中にある脂鰭(あぶらびれ)を切り取られ、鼻には極細のタグが埋め込まれます。なくなっても泳ぎに影響しない脂鰭がないサーモンを釣り上げたら、頭を切り落として船着き場の「ヘッド・デポ」に入れておきます。それらは研究施設に集められ、タグ情報からサーモンの資源状況の把握に役立てられます。つまり、われわれも釣りをしながら「命のサイクル」を守る取り組みに貢献できるのです。
サーモン・シュノーケリング
「サーモンと泳ぐ」というキャンベルリバーでしか体験できない超レアなアクティビティです。ウェットスーツに身を包み、ゴーグルをつけ、シュノーケルを口にしてボートに乗り込みます。川の中ほどでボートから川の中へ。水中に目をやると、遡上する無数のサーモンが目に飛び込んできます。人間は川下へと流され、サーモンは逆に川上に向かっているため、物凄いスピードですれ違うことになります。ただし、サーモンは動きのにぶい人間を機敏に避けてくれるので、ぶつかるようなことはありません。産卵のため故郷の川を目指して健気に泳ぐサーモンのほかに、水中をよく見ると、力尽きたサーモンがたくさん水底に沈んでいるのを見ることができます。生まれ故郷で産卵するサーモンと、それが叶わず川底で生まれ来る稚魚の栄養となるサーモン。はるか昔からサーモンが繰り返してきたこんな営みが、カナダ太平洋岸の豊かな「命のサイクル」を担ってきたことが実感できる瞬間です。
4日目
キャンベルリバーを発ちバンクーバーへ
水上飛行機でバンクーバー島を離れる前に、「キャシドラルグルーブ(Cathedral Grove)」を訪れてみましょう。カナダの太平洋沿岸にはたくさんの巨木がはえていますが、実はその大半がかつて木材として伐採されたあとの「2世」や「3世」。その中にあって、ここには樹齢800年の木が残っています。まさに手続かずの巨木の森と言えるでしょう。またこの行程には含まれていませんが、風変わりな球体ツリーハウス「フリースピリットスフィア(Free Spirit Spheres)」もバンクーバー島でぜひ訪れてみたいスポットです。ロープで吊るされた森の中の球体ホテルは、鳥の巣で暮らすような気分に浸れるはずです。
夕食はバンクーバー市民に人気の「Forage」に行きましょう。「サステイナブル(持続可能)な食」を追求するレストランです。
TSUNAGARIポイント
レストラン「Forage」
サステイナブル(持続可能)な農法や漁法にこだわる地元の農家や漁師からだけ食材を仕入れるレストラン「Forage」。豚は一頭買いして骨もスープにするなど、すべての部位を無駄なく使います。ジャムやピクルス、ハムも手作り。生ごみも堆肥にするという徹底ぶりです。なにしろシェフのウェルバートのお薦めは、バイソンのロースト。ビーフではないのは、肉牛を育てるには二酸化炭素の排出量が多いからだ、と語ります。バンクーバーの人たちに人気の「Forage」で食事をしていると、ここに住む人たちが日々、どんなことを大切にしながら暮らしているが分かってくるのです。
Canapedia 巨木の森
5日目
日本人とサーモン、日本とカナダの「つながり」に触れる
午前中は漁港スティーブストンを訪れ、かつてサーモンの缶詰工場だった「ジョージアンカナリー史料博物館」を見学します。サーモンがつないだ日本とカナダの不思議なつながり、太平洋戦争中の悲しい出来事についても知ることができます。
きょうのランチの場所は「フィッシュカウンター」という小さなお店です。イートインのような狭い店内ですが、ここではこだわりのフィッシュ&チップスを味わえるのです。
午後はUBC人類学博物館(UBC Anthropology Museum)を訪問します。巨木から生まれたトーテムポールの文化に触れましょう。
バンクーバーでの最後の夕食は、先住民料理を体験できるレストラン「サーモン・エン・バノック」へ。
TSUNAGARIポイント
スティーブストン
バンクーバーの南に位置する漁港スティーブストンは、無数のサーモンが遡上するフレーザー川の河口に位置しています。新鮮なサーモンを販売するフィッシャーマンズワーフがあり、シーフードレストランが立ち並ぶ観光スポットですが、実はここにはかつて15ものサーモンの缶詰工場があって、明治のころに日本から漁師やその家族が海を渡って出稼ぎにやってきました。夫はサーモン漁、妻は赤ん坊をおぶって缶詰工場での過酷な労働に従事しました。川の上に建つジョージアンカナリー史料博物館では、足元からのぼってくる冷気を感じることができるでしょう。女性たちはこの冷たさの中で働いていたのです。しかし太平洋戦争の勃発で、必死に働いていた日系人は敵性外国人とみなされ、すべての財産を没収されて内陸の収容所へ強制移住させられました。サーモンをはじめとするシーフードを楽しむ人々でにぎわう観光地で、かつてそんな悲しい出来事があったことを心にとめてほしいのです。
フィッシュカウンター
ここで出されるフィッシュ&チップスは素材が違います。巨大なカレイ「ハリバット」やタラに加え、養殖ではない天然のサーモンが“フィッシュ”として使われているのです。子どもや孫の世代も今と同じシーフードが食べ続けられるようにと、持続可能(サステイナブル)な漁法で捕られたシーフードのみを使うことを貫いています。小さな店内では、魚屋のように生の魚も売っていますが、お土産に日本に持って帰れないのが残念なほどです。
UBC人類学博物館
ブリティッシュコロンビア大学の広大な敷地内にあって、カナダの太平洋岸の先住民文化を学ぶことができる博物館。カナダ人建築家アーサー・エリクソンが設計し、約53万5000点にもおよぶ収蔵物がおさめられています。そんな展示物の中でも、先住民アーティストを代表するビル・リード作の「ワタリガラスと最初の人々」は見逃せません。そしてじっくり見てみたいのは、館内に林立するトーテムポールの数々です。博物館は本来、展示品が痛むのを防ぐため薄暗い場合が多いのですが、ここは一面ガラス張りで、太陽の光がさんさんと降り注いでいます。トーテムポールはいずれ朽ちるもの、そうなったらまた新しいポールを作ればいい、という先住民の考えを踏まえた展示方法なのです。
レストラン「サーモン・エン・バノック」
カナダ太平洋岸の先住民が古くから生きる糧としてきたサーモンと、先住民のパンであるバノックを店の名前としたレストラン。バノックは発酵させずに焼いたパンなので、しっかりとした歯ごたえがあります。肉やサーモン料理のほか、変わったところでは「ソープベリー」という先住民に伝わる秘密のベリーのデザートがあります。その名の通り、石鹸の泡のような見たこともない不思議なデザートはぜひ味わっておきたいひと品。オーナーのイネス・クックさんが雇うスタッフは全員が先住民。食材やワインも可能な限り先住民から仕入れるようにしているとのこと。店内には、先住民のアーティストの作品が飾られていて、お客は気に入ったらその場で購入できる仕組みです。ここは先住民の助け合いの心が感じられるレストランなのです。
Canapedia 日本人移民とサーモン
For Glowing Hearts ロバート・クラーク:オーシャンワイズをスタートさせた一流シェフ
Canapedia オーシャンワイズ
Canapedia トーテムポール
Canapedia 太平洋沿岸の先住民
6日目・最終日
サーモンと巨木、そして「命のサイクル」の物語をスタンレーパークで体感して、帰国の途に就きましょう。
TSUNAGARIポイント
スタンレーパーク
バンクーバーを訪れた旅人の多くがこの広大な公園に足を向けますが、今までその素晴らしさは十分伝わっていなかったのかもしれません。ここには黒潮が運ぶ暖かい空気と大量の雨によって育まれた巨木の森があります。その巨木から先住民が生み出したトーテムポールが公園内に立ち並んでします。公園をぐるりと囲むようにして続くトレイル「シーウォール(Seawall)」では、みんながジョギングやサイクリングを楽しんでいます。ここで暮らす人たちは、子どもや孫も今と同じようにおいしいものを食べられることを願っています。地球への負荷を減らしながら生きたいと願い、市民みんなで 「世界一グリーンな都市」 を目指しています。スタンレーパークにいると、改めて「命のサイクル」を大切にする人々の思いが強く伝わってきます。最後にサーモンと「命のサイクル」に出会う旅を振り返るのに、ここは最もふさわしい場所かもしれません。
ハイダグワイの精霊
帰国を前に、バンクーバー空港で最後に見てほしいのが、セキュリティ・チェックの手前のロビーに置かれた「ハイダグワイの精霊 翡翠(ひすい)のカヌー(Spirit of Haida Gwaii, the Jade Canoe) 」です。あのビル・リードの最高傑作とも言われている作品です。ハイダ族の人々とクマやカエル、そしてハイダの人々にとって最も大切な存在であるワタリガラスなどが一艘のカヌーに乗り込んでいます。カヌーを漕いで進むその力強さに、なんだか元気をもらえそうです。さあ、サーモン、巨木の森、先住民、トーテムポールをめぐる様々な物語と、旅を通じてカナダとの間に育まれた「TSUNAGARI」を手に、日本に戻ることとしましょう。